刊行物
統合失調症(精神症)関連
精神病の苦しみのためのパーソン・ベースド認知療法
ポール・チャドウィック (著),
石垣琢麿 (解説), 南学正仁 (監修), 菊地藏乃介 (翻訳), 杉浦久美子 (翻訳), 美濃部るり子 (翻訳)
- 出版社
- はるかぜ書房
- 単行本
- 256ページ
- 出版日
- 2024年9月
- 内容紹介
・当該書籍の内容は、医療観察法ガイドラインで推奨されるCBTp(CBT for psychosis)の翻訳書である。
・統合失調症(精神症)研究および臨床の大家によるマインドフルネスを扱った著作であり、書籍では他に類を見ない、訳者より)
著者は何故セラピーの名に「パーソン」と冠したのか
自明のことであるはずなのに、そうでない場合に、それを強調することはよくある事だ。この本が対象としているのは、もちろんセラピスト(とそのクライアント)なので、パーソンというのは自明である。
しかし、では何故、著者のChadwickは「パーソン」を強調したのであろうか。強調するのみならず、この心理療法のモデルを「パーソンモデル」と名付けている。★広く知られているように、日本では、統合失調症(精神症)の方の心理療法はまだまだ実施が少数であるという調査報告がある。聞くところによると、1980年代から精力的にこの分野を開拓してきたイギリスでも未だそのような状況が少しは存在するらしい。
ひと昔前なら「妄想は否定もせず、肯定もしない」そう教わった人は多い。
今、それをそのまま信じている人は、さすがに少なくなったと思う。
しかし、それ以前に、精神症を持った方との関係の中に、精神症の方への治療の中に、心理療法の中に、考えや態度の中にその理由を見出したかもしれないし、もしかしたらご本人の内面化されたスティグマの中にも、空気のように気づかないほど浸透した「パーソン」を強調しなければならない理由が存在するのでは? という疑問を翻訳後にも改めて感じる読後感がある。
パーソンは当たり前だが「人」のことだ。人は、何かを他人や自分自身からも決めつけられたり固定されたりされる存在ではない。この本で展開する心理療法では、固まったり決めつけられたり沈殿した空気が仮に存在するならば、固定から流動へ、矮小からダイナミックなものへ、過去から未来へ自由に、クライアント、セラピストの足枷を外していく。目的は苦痛の軽減にとどまらない。
病気の治療にとどまらず、その人の自己を自由に、のびのびと、豊かにする。
まったく対等に、人としての協働作業の場を、人(治療者)と人(精神症を持った人)がともに作っていくのだ、と、著者の主張がここに、宣言される。★(このパーソンはもちろんロジャーズのクライアント中心療法を意識している)