過敏性腸症候群 (IBS)

このページは、過敏性腸症候群への当医療センターの取り組みを掲載しています。過敏性腸症候群に関する多様な情報をご覧いただけます。

診察手順のご紹介 -画像を用いた病態分類と治療-

当院は大腸鏡挿入法「浸水法」の開発過程で見出した過敏性腸症候群・慢性便秘症での内視鏡挿入困難の原因
 ① ストレス関連の「腸管運動異常」と
 ② 運動不足関連の「腸管形態異常」を
切り口に診療範囲を拡大してきました。

これまでの豊富な臨床経験から、「腸管運動異常」は問診から高精度で推測できるようになり、② 腸管形態異常はCTコロノグラフィーを用いなくても腹部X線からある程度推測ができるようになり、近年、「腸管運動異常」や「腸管形態異常」は非常に有効な薬剤が出現したこともあって、ストレス管理や運動励行などの生活習慣改善と併せて非常に短期間で改善するようになりました。

次に見えてきたのが食事関連の病態 ③ 食事をすることで誘発される「胆汁性下痢症」でした。
脂質異常症を合併する「胆汁性下痢症」には陰イオン交換樹脂が奏功してすぐに正常の生活に戻ることができます。

「胆汁性下痢症」が解決して見えてきたのが ④ 食事内容で誘発される「FODMAPや慢性膵炎を含めた消化不良症候群」でした。乳製品や小麦、ネギ類やニンニクに代表されるFODMAPや慢性膵炎で起きる脂質の消化吸収障害が腸内細菌による発酵を引き起こし腹部膨満や下痢の症状を引き起こしていたのです。腹部X線では発酵の結果として小腸を含めて大量のガスが観察されます。
FODMAPでは食事内容の聴取から必要最小限の食事制限、慢性膵炎では画像検査を含めた膵機能の検査を行い消化酵素剤の補充により画像で評価できるほど改善することが分かってきました。

乳幼児に多い直腸性便秘の原因となる ⑤「直腸肛門角」の問題も臀部の観察からある程度推測できるようになりました。
すなわち画像検査と問診からみると過敏性腸症候群や慢性便秘症は分かりやすく、有効な薬剤と併せて治療が容易となりました。

過敏性腸症候群下痢型

第105回日本消化器病学会総会で発表しました。
「問診と画像による食事関連IBSの診断と治療 -胆汁性下痢症とFODMAPの相違点- 」

  • 食事で下痢をするIBSのうち、食事内容に関らず下痢をする胆汁性下痢症と食事内容で下痢やガスが起きるFODMAPが腹部X線で明瞭な差があったことを報告しました。

過敏性腸症候群下痢型 : 腸の留める力を出す力が上回った状態です。
その原因として出す力が上回ったものが3つ、そして逆に便を下痢でしか出せない状態が1つあります。


● 便を出す力が上回ったもの

① ストレスによるもの : 腸管運動異常 下痢型IBSの約50%
下痢型IBSは食事や薬物療法でのプラセボ効果が50%以上に認められるメンタルの影響が強い疾患です。
これまで我々はストレスで下痢が誘発されるIBSの多くで大腸内視鏡で緊張すると鎮痙剤で抑制されない「腸管運動異常」が認められることを報告しています。
当院の下痢型IBSの患者さんも実際に半数以上がこのタイプです。
ラモセトロンやタンドスピロンなどの非常に有効な薬が存在し、内視鏡で実際にご自身の腸の動きを観察するとバイオフィードバックによって薬が不要になることが多いです。
検診の大腸内視鏡では約10%の人に緊張して腸が動く現象が観察されますが、その人たちが緊張したときに下痢を起こす辛い場面を経験して、そのことがトラウマとなって悪循環に陥るのが病態です。
体質を理解して、トラウマが解消するとほとんどの方が下痢の問題がなかった元の状態に戻ります。

腸管運動異常 (左)緊張時   (右)リラックス

② 食事することによるもの : 胆汁性下痢症 下痢型IBSの約30%
胆汁性下痢症:便がほとんどない【臥位】 便がガスがほとんどない
【臥位】

食事を摂ると胆嚢から胆汁が十二指腸に分泌されますが、胆汁の成分「胆汁酸」は大腸から水分を分泌させて、蠕動を起こさせる「体内下剤」です。
大腸に過剰な胆汁酸が届くと、食事内容に関らず、食事をすると下痢をするようになります。
下剤を飲んでいる状態と同じなので腹部X線では便がほとんどないのが特徴です。
これまで、虫垂炎の手術で小腸の末端部を切除すると胆汁酸が大腸に多く届くようになって胆汁性下痢症が起きることが知られていましたが、虫垂炎の手術が少なるにつれ忘れられてきていました。
ちなみに昨年販売された慢性便秘症治療薬エロビキシバットは大腸内の胆汁酸を増やす、人工的に胆汁性下痢症を起こすことで便秘を改善する薬です。
海外では人口の約1%、下痢型IBSの約30%がこのタイプとされていて、高脂血症治療薬の胆汁酸吸着薬(コレスチミドやコレスチラミン)で胆汁酸を無毒化して胆汁酸濃度が低下すると速やかに改善します。
食後に体内下剤を利用してしっかり排便する排便習慣の改善で良くなることもありますが、改善しない場合は高脂血症を勘案して胆汁酸吸着薬でコントロールします。


③ 食事の内容によるもの : FODMAPや慢性膵炎などの消化吸収障害 下痢型・混合型IBSの約3% (当院)
慢性膵炎による脂質の消化不良や牛乳や小麦、ネギ類やニンニク、果物などFODMAP※1.の消化不良で不消化物が小腸・大腸に残ることで発酵と下痢を起こすものです。
提示した症例はFODMAP制限でガスが著しく減りました。治療前後の腹部X線を提示します。
ちなみにこの食事の内容による消化吸収障害は当院を来院されるガスで困っている方の約10%程度です。

※1. fermentable (発酵性)、oligosaccharides (オリゴ糖類)、disaccharides (二糖類)、monosaccharides (単糖類)、polyols (ポリオール類)

FODMAPや慢性膵炎などの消化吸収障害 (左)【初診時】小腸ガス多い
(右)【回復時】小腸ガス減少

● 下痢としてしか出せないもの

④ 便が出にくいため下痢でしか出せない状態 : 腸管形態異常
これまで大腸の形が原因でお腹が痛い便秘(便秘型IBS)、便秘と下痢の繰り返し(混合型IBS)が起きることを報告しております(Intestinal Research 2017; 15(2): 236-243)。
さらに悪くなると下痢でしか出せない状態となり、これまでの治療が全く効かない状態となります。
このタイプの下痢型IBSは下痢ですが、腸のねじれに便が引っかからないように少量の浸透圧性下剤を使い、エクササイズやマッサージを行うことで下痢しなくなります。

腸管形態異常 (左) 便秘型  (中) 混合型  (右) 下痢型

このように下痢型IBSといってもその原因にはいろいろあり、さらに病態が重なっているケースもあります。
適切な問診と腹部X線で上記の分類をすることで、わかりやすく効果的な治療が行えます。

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