IBS・便秘外来

過敏性腸症候群 (IBS)

過敏性腸症候群は大腸検査で見る事ができる

過敏性腸症候群 (IBS) は脳腸相関の異常、消化管運動異常・知覚過敏が存在する状態で、心理的緊張 (試験や電車への乗車など) によって下痢・腹痛などの症状増悪を起こすことで知られる「機能性胃腸障害」の一つで成人での有病率は 5 - 20%と報告されています。

過敏性腸症候群の特徴としては就寝中には症状が出現しないこと、下痢や腹痛が主症状であるにもかかわらずブスコパンRなどの鎮痙剤があまり有効ではなく、抗鬱薬や抗不安薬が有効であることが挙げられます。

これまで一般臨床で過敏性腸症候群を診断する方法がなかったため、消化器科にかかっても「大腸検査は正常で問題なし」で片づけられ、実際には症状に苦しんでいても納得がいく説明を受けることができず、適切な治療が受けられないことが多かった疾患でもあります。


我々は腸管内容積の変動を抑えて (お腹が張らない) 腸管を伸ばさないことで患者さんの苦痛を減らし、鎮静剤や鎮痛剤などの麻酔を使用せずブスコパンRなど鎮痙剤の投与のみで無痛挿入が可能な大腸内視鏡 (大腸鏡) 挿入法「浸水法」を開発・実施しています。

※ Mizukami T, Yokoyama A, Imaeda H et al. Collapse-submergence method: simple colonoscopic technique combining water infusion with complete air removal from the rectosigmoid colon. Dig Endosc 2007; 19: 43-48.

本法は2007年より米スタンフォード大学やUCLAで導入され、2010には従来法に比して「苦痛が少ないこと」「挿入時間の短縮ができること」について論文化されました。

※ C W. Leung, R M. Soetikno Water Immersion Vs Conventional Colonoscopy Insertion: A Randomized Controlled Trial Showing Promise for Minimal-Sedation Colonoscopy. Endoscopy 2010; 42(7): 557-563.

 

日経メディカル2010年6月号トレンドビュー「注水で大腸内視鏡を容易に鎮静、送気不要でS状結腸挿入時の苦痛も軽減」 日経メディカル 2010年6月号

国内でも苦痛が少ない合理的な方法として、日経メディカル2010年6月号トレンドビュー「注水で大腸内視鏡を容易に鎮静、送気不要でS状結腸挿入時の苦痛も軽減」や、新聞多数紙に取り上げていただいております。
これまで鎮痙剤の前投与のみを行う大腸内視鏡 (大腸鏡) 検査では投薬後8分を超えて約10%の方で遷延性の腸管運動を認めることを報告していましたが、近年これらの方では再検査でも高率に遷延性腸管運動を認め、過敏性腸症候群の症状・既往があることがわかりました (第70回消化器心身医学会 第1回並木賞受賞) 。

さらに過敏性腸症候群で興味深いことは大腸内視鏡 (大腸鏡) 検査でポリープや大腸癌がなく、自身の腸管運動異常を認識し理解すると、多くの方が症状を克服できるようになる「デリケートな腸とうまくつきあえるようになる」ことです。
不安 (いつまでも症状が続くが、悪い病気が隠れているのではないか等) が腸管運動異常を引き起こし、さらに症状を悪化させ、不安をつのらせるという悪循環が過敏性腸症候群での一番の問題点なのですが、大腸内視鏡 (大腸鏡) 検査をすることでこの悪循環を断ち切ることができるからではないかと考えております。

大腸内視鏡 (大腸鏡) による過敏性腸症候群の腸管運動評価 診断と病型分類、治療への応用の可能性 : 水上健,鈴木秀和, 日比紀文
消化器心身医学 16巻1号 P91-97 (2009.04)

(左) 下痢性の強い蠕動  (右) 便秘型の文節型運動

また我々の大腸内視鏡 (大腸鏡) 挿入法「浸水法」は、無麻酔で苦痛がほとんどないという特徴に加えて、螺旋の複合体である大腸を「コルク抜き」のように捻り操作で挿入していくという特徴があります。
「浸水法」では腸管の捻れにあわせて挿入していくので、私たちは個人個人の大腸形態を把握しながら検査を施行しております。


  • 日経メディカル2010年6月号トレンドビュー「注水で大腸内視鏡を容易に鎮静、送気不要でS状結腸挿入時の苦痛も軽減」 日経メディカル 2010年5月号

    近年、過敏性腸症候群と言われている方でもストレスの関与が少ない方がいることが明らかになり、ストレスによる腸管運動異常がその病態ではなく、腸管形態異常による通過障害が病態で過敏性腸症候群の症状を出していることが明らかになりました

    ※消化器心身医学 2010 17(1) 33-39.、日経メディカル 消化管学会総会特集号2010にも掲載いただきました。

これらの腸管形態異常のある患者さんの症状の特徴は「硬い少量の便が出た後、大量の下痢や軟便が出ること」で、腸のねじれた部位で栓となっていた硬い便が出ると、つかえていた大量の下痢便や軟便が大量に出ることです。
これらの方は症状に先行する明らかなストレスがないことが多く、結婚・退職・それまでしていた運動の中止などの生活変化がきっかけになることが多く、「下剤をかけるとひどい下痢、下痢止めを使うとひどい便秘」になるなど便通のコントロールが困難で、従来の過敏性腸症候群の治療効果はあまりありませんでした。

腸管形態異常 X線画像 (左) 横行結腸の捻れ  (中) S状結腸の捻れ  (右) 直腸の捻れ

腸管形態異常による過敏性腸症候群の方に大腸内視鏡 (大腸鏡) での腸管運動評価に加えて注腸造影を併用した腸管形態の評価と、その腸管形態に応じた便性状コントロール・マッサージ・エクササイズをオーダーメイドで行う新しい試み。

  • 【CTC画像】下行結腸の捻れ

    当院 水上は、2007年より横浜市立市民病院で腸管形態異常による過敏性腸症候群の方に大腸内視鏡 (大腸鏡) での腸管運動評価に加えて注腸造影を併用した腸管形態の評価と、その腸管形態に応じた便性状コントロール・マッサージ・エクササイズをオーダーメイドで行う新しい試みを先んじて行い、とても良好な成績を得ました。

    2010年からはCTにより腸管形態を立体的に描出可能なCTコロノグラフィーを導入し、患者さんにもご自身の腸管形態がより理解しやすいものとなるとともに検査の身体的負担*が少なくなっています。
    * 大腸内視鏡 (大腸鏡) 直後に仰向けでCTを撮るだけです。

このことは2010年12月2日のフジテレビ「とくだね」で放映されました。

平成22年12月2日放送 : フジテレビ「とくだね」より 平成22年12月2日放送 : フジテレビ「とくだね」より

過敏性腸症候群は決して「検査で異常がない」疾患ではありません。
大腸検査で異常や腸管形態異常を確認して適切な対応策をとることができます。

当院内科ではこれらの発見と豊富な経験をもとに「過敏性腸症候群の大腸内視鏡(大腸鏡)とCTコロノグラフィーを統合した腸管運動・腸管形態評価と治療」に取り組んでいます。

「過敏性腸症候群と言われているがあまり良くならない」、「ご自身の大腸の状態を確認し、治療につなげたい」と思われている方の受診をお待ちしています。

IBS・便秘外来 担当医師 : 水上 健



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