IBS・便秘外来

慢性便秘症

便秘で悩まれている方へ

当院の便秘症関連からのお知らせ

2024年6月23日 慶應義塾大学薬学部 生涯学習公開講座で講演しました。
水上医師

「慢性便秘症について -画像で見る病態とその対策-」

生活習慣病としての慢性便秘症

慢性便秘症の対策の第一段階は薬ではなく、適度な運動とバランスの取れた食事、規則正しい排便習慣です。
運動と慢性便秘症の関係の報告はいくつもありますが、運動を励行している学校や、体育系学部での保健室でお話を聞くと慢性便秘症はほとんど存在しない病気とされています。

そして最近よく言われるのは、日本人の食物繊維摂取量の低下です。
食物繊維摂取量の目標は男性20g、女性18gとされていますが、1960年頃より摂取量が低下して最近では15g程度まで減少しています。
池上先生がご報告された論文からの作成した図が示すように、穀物以外の食物繊維摂取量は変化していないが穀物由来の食物繊維摂取量が減っていて、その量がすなわち日本人の食物繊維摂取量の低下につながっているようです。

日本人の食物繊維摂取量の推移

穀物由来食物繊維の摂取量低下は米の精米度合いの上昇 (以前は食物繊維の多い玄米寄りだった) と米の摂取量が半減したこと、豆類 (特に皮がついているもの) の摂取量の低下が原因とされています。
米に玄米や雑穀を混ぜたり、皮を含む豆類を摂取することは、食物繊維補充の対策としては合理的です。
快便も大切ですが、快食もとても大切です。
食物繊維に富む食材の一つに加えて食事のバリエーションを広げましょう。

ただし、ひとつご注意いただきたいのは慢性便秘症には様々な原因があることです。
慢性便秘症診療ガイドラインはこちら

慢性便秘症のすべてに食物繊維が有効なわけではありません。
便が多くてお腹が張っている人が食物繊維を摂りすぎると逆効果になることがありますし、すでに努力していて効果がない場合は慢性便秘症の原因は他にあります。

慢性便秘症は体質です。
ご本人の慢性便秘症の原因を見つけて、まずは運動や食事の面から無理なく、長続きできる対策をして慢性便秘症体質とうまく付き合いましょう。

日本初の慢性便秘症診療ガイドラインが発刊されました

便秘はインターネット調査では人口の28%もの方が悩まされている疾患です。
ところが驚くべきことに、これまで日本では便秘診療のガイドラインは存在しませんでした。
科学的根拠なく、経験論的に便秘診療が行われてきたのです。


2017年10月に日本消化器病学会から日本で初めての慢性便秘症診療ガイドラインが刊行されました。
水上 (当院医師) も診断と治療セクションでガイドライン作成に参加しました。

ガイドラインで便秘は「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されます。

01. 診断基準

慢性便秘症の診断基準を簡単にまとめると、

  • 兎糞・硬便など固い便
  • 便を出にくい
  • 残便感がある
  • 排便回数が週3回未満

の2項目以上を満たし「6ヶ月以上前から症状があり、最近3ヶ月間は基準を満たしていること」と定義されます。腹痛の有り無しは問わず、「腹痛を伴なう便秘」である便秘型IBSを含むものとされました。
いずれにしても「他に症状がなければ、毎日出ていなくても便秘ではない」ということが明示されました


02. 症状と病態

便秘は症状から、

  1. 排便回数減少型
  2. 排便困難型

に分類され、

便秘の病態は、

  1. 大腸通過正常型 : 便秘型IBSなど
  2. 大腸通過遅延型 : 特発性便秘や便秘型IBS
  3. 便排出障害型 : 直腸性便秘や直腸瘤、骨盤底筋協調運動障害など

の3つに分類されます。
この分類は世界で現在使用されているもので、便秘の研究をする上では非常に重要なものです。

肛門科を直接受診されること多い、上記3.「便排出障害型」は排便造影などが行われ、画像検査に基づいたわかりやすい治療が行われています。

ただ、一般に便秘と言われるものの大部分を占める、上記1、2の分類には日本で行えない検査 SITZMARKS®が必要で、「大腸通過遅延型」と言われても便秘なんだから当然だろうと思われるでしょうし、「大腸通過正常型」と言われても困ってしまうと思います。
もちろん治療する側としても「大腸通過遅延型」と「大腸通過正常型」で治療指針が異なるわけではないので困ってしまいます。

便秘治療先進国のアメリカではSITZMARKS®は主に研究に用い、一般臨床では使わないとシンシナティ大学の教授は話されていました。

なかなか感覚的に理解しにくい新しい便秘の病態分類ですが、これまで我々が報告している画像検査から見た病態分類を当てはめると理解しやすくなります。

画像検査からみた便秘の病態 「温故知新」

以前より使われていた便秘の分類に1920年にドイツで提案されたとされる

  1. 直腸性便秘
  2. 痙攣性便秘
  3. 弛緩性便秘

の3つに分類する方法がありました。
この分類であれば画像検査で「目で見える」ようになり、新しい便秘分類に当てはめて考えることができるようです。

1. 直腸性便秘 : 排便の我慢で直腸の知覚と反射が減弱して便秘になるタイプ

おなかのレントゲンで直腸に大きな便の塊があるが便意はない
⇒「便排出障害型」の一部と考えられます。

2. 痙攣性便秘 : 身体的・精神的ストレスで便回数が少なくなるタイプ
「旅行中出ないが帰ると出る」「平日は出ないが休日出る」のが特徴。便秘期間に比しておなかが張らず、1 - 2ヶ月に1回という人もいます。おなかの痛みを感じる方もいます。

  • 痙攣性便秘 X線画像
  • 痙攣性便秘 緊張時画像 緊張時
  • 痙攣性便秘 リラックス時画像 リラックス

おなかのレントゲンでは竹の節状の腸の痙攣と兎糞状の便が見られます。内視鏡では緊張で竹の節状の運動が見え、リラックスすると運動が消えます。
⇒「大腸通過遅延型」の一部に相当すると考えられます。
痛みを感じる人はストレスによる「便秘型IBS」になります。

3. 弛緩性便秘 : 腸管神経叢が不可逆な障害を受けて、便が出せなくなるタイプ
ほとんどは長期間連用した刺激性下剤のため腸管神経叢が不可逆な障害を受けて大腸が動かなくなり、便が出せなくなることで大腸が長く、太くなります。

弛緩性便秘 X線画像

大腸に便が充満して拡張しています。大腸神経叢の障害で腸管運動が障害されているため
⇒「大腸通過遅延型」に相当すると考えられます。
弛緩性便秘は海外では刺激性下剤が長期連用されることがなくなったため2006年の機能性腸障害のバイブル「RomeⅢ」によると海外ではほとんど存在しなくなったとされています。

画像から見える便秘の病態分類を新しい便秘の病態分類に当てはめると

  1. 大腸通過正常型 : 「ねじれ腸や落下腸」によるストレスの関与が薄い腸管形態異常便秘
  2. 大腸通過遅延型 : 痙攣性便秘やストレスによる便秘型IBS、刺激性下剤の長期連用による弛緩性便秘
  3. 便排出障害型 : 直腸性便秘や直腸瘤、骨盤底筋協調運動障害などの肛門科疾患

のようになると考えられます。

4. 腸管形態異常便秘 : 運動不足でお腹が痛い便秘になるタイプ(便秘型IBS)
これまで「ねじれ腸」「落下腸」としてご報告した「便秘型IBS」の一部です。 (便秘型IBSは慢性便秘症に含まれます)。

腸管形態異常便秘 X線画像

立ち上がると大腸全体が骨盤内に落ち込んで折りたたまれます。
腸が動いても便が出ないため腹痛が起こすストレスの関与が薄い「便秘型IBS」になります。大腸の動きに問題がないことが多いため。
⇒「大腸通過時間正常型」に相当すると考えられます。

画像検査からみた便秘の病態分類への対処方法

1. 直腸性便秘
 「若い女性のトイレの我慢」などで良く知られる便秘です。当院を受診する乳幼児の便秘の90%以上を占め、小児でも40%程度を占めます。在宅患者や長期臥床者でもよくみられます。
乳幼児は先天的なおしりの形、小児では入学など生活変化がきっかけになるようです。
寝たきりや高齢者ではトイレに行きにくいことからの我慢で起きるようです。
病態は直腸に便塊が残って知覚低下・直腸反射がなくなる状態なので、直腸の便を浣腸でリセットして食後数分の排便習慣をつけると数週間で回復します。
特に乳幼児でおしりの痛みからの排便忌避が問題になるので、便を出しやすい排便姿勢指導が重要になります。
便が固くなって出にくい場合に限りオリゴ糖やマグネシウム製剤を投与しますが、直腸反射の消失という病態からしても刺激性下剤は不要です。
2. 痙攣性便秘⇒大腸通過遅延型
身体的・精神的ストレスで便回数が少なくなる「体質」です。
「旅行中出ないが帰ると出る」「平日は出ないが休日出る」のが特徴で、便が出ない期間が7-10日程度出ないのは珍しくなく、数ヶ月間1回も排便がない場合もあります。
ストレスがかかった状態になると内視鏡で提示したように部分的に痙攣して竹の節のようになって便が移動しなくなるため水分が吸収されて便が固く小さくなり兎糞状になります。
便が兎糞状になっているため便の量が少ないのも特徴で、1ヶ月間出ていなくてもお腹の中に便が少ししかないことが多いです。災害やコロナ禍で大きく影響を受けるのはこのタイプです。

このタイプの方は排便回数が少なくても出すときにするっと出れば問題はありません。

ただ、「ねじれ腸」や「落下腸」を持っている方に合併すると「回数は少なくてもよいのだが、出すのに苦労する」という状況になります。
便回数を心配せず、出しやすくするために、水分摂取・ラジオ体操などのエクササイズを行い、だめならマグネシウムやオリゴ糖の浸透圧下剤、それでだめならルビプロストンやリナクロチドなどの新規便秘薬を要します。
固くなった便が詰まって出にくい場合は刺激性下剤や浣腸を週1-2回使ってリセットすることは有効です。
3. 弛緩性便秘⇒大腸通過遅延型
その多くは刺激性下剤 (ピコスルファート・ビサコジル・センナ・大黄・アロエなど) の長期連用による腸管神経叢の不可逆な障害が原因とされます。
刺激性下剤の長期連用が行われなくなったことで海外ではほぼなくなったとされています。
1-3の便秘の原因の対処を行い、大腸の回復を待つのが治療です。
刺激性下剤なしでは排便ができなくなっていることも多いので、週2回程度の刺激性下剤を内服して、それ以外の日は大腸を休ませます。
回復期間は刺激性下剤の内服期間の長さが関係し、数か月から数年かかることもあります。
ただ90代でも刺激性下剤がいらなくなった方を経験しており、時間はかかっても刺激性下剤なしで排便できるようになるようです。
4. 腸管形態異常便秘⇒大腸通過正常型
「ねじれ腸」「落下腸」でご紹介してきた便秘で、運動不足で便秘する「体質」です。
大腸が動いても大腸のねじれに便が引っかかって出ないため、腹痛があることが多いです。
不用意に刺激性下剤を使用するとひどい腹痛で失神される方もいらっしゃいます。

便が通りやすくすればよいので、適切な水分摂取とエクササイズ・マッサージが有効です。

特に問題になるのが「痙攣性便秘」に「ねじれ腸・落下腸」が合併した状態で、便を軟らかくするのにマグネシウムやオリゴ糖だけでは不十分なことが多く、ルビプロストンやリナクロチドといった新規便秘薬が必要になることが多いです。

慢性便秘症診療ガイドラインのキモ

  • 毎日出なくてもすっきり出ていれば便秘ではない。回数の目安としては週3回程度。
  • 刺激性下剤は大腸のリセットをする有用で重要な薬だが、長期間連用するのは治りにくい「弛緩性便秘」の原因となる。 短期間もしくは屯用での使用が推奨される。

関連リンク

こちらから参考資料として「画像検査からみた便秘の病態」 をご覧いただけます。

以下「診療手順のご案内」において、年齢層や、病気別の診療ロジックと治療期間の目安を随時ご紹介いたします。


 「ご自身の腸」を知ってご自身の腸とのよい付き合い方を見つけましょう。

検査で異常がないものの排便障害に苦しんでいる方、特に従来の薬の効果が薄かった方のご受診をお待ちしております。

IBS・便秘外来 担当医師 : 水上 健



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    学業や仕事に支障が出ている方は早く診察しますのでご予約の際にお伝えください。
  • これまで医療機関を受診されている方は検査結果を持参していただけると効率よく診察できます。
  • これまでの多くの経験から来院時のレントゲンだけでも腸管形態の評価が可能になりました。
    (普段通りの状態でレントゲンを撮らせていただけると、現在悩んでいる症状の原因を推測できます。診察前日は下剤を飲まないでいらしてください。)
  • レントゲンを診て必要があれば大腸内視鏡検査・CTコロノグラフィーを予定いたします。
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