慢性便秘症

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筆者の大腸とのなれそめ

注腸造影での腸管形態スケッチ:S状結腸注腸造影での腸管形態スケッチ:下行結腸下部 注腸造影での腸管形態スケッチ
S状結腸 (左) 下行結腸下部 (右) にねじれがある

筆者 (久里浜医療センター内視鏡部長、IBS・便秘外来担当医師 : 水上 健)は大腸癌検診として約6,000人の注腸造影、20,000人の大腸内視鏡を施行して大腸の腫瘍・炎症と共に腸管の運動・形態に注目してきました。

注腸造影では全例の腸管形態をスケッチし、腸を膨らませず・伸ばさず、腸の形態に合わせた挿入をする「大腸にやさしい」無麻酔大腸鏡挿入法「浸水法 (Mizukami T. Dig Endosc 2007; 19: 43-48.) 」を開発しました。

本法は合理的で容易な方法として国内外で使用され、従来法との比較で苦痛が少ない事、挿入時間の短縮が図れる事をスタンフォード大学からご報告いただいております (C W. Leung. Endoscopy 2010; 42 (7) : 557-563) 。

「浸水法」での大腸内視鏡は無麻酔で行われます。検査中は音楽を聴きながら患者さんとお話しながら和やかな雰囲気で過ぎていきます。お話の内容は大腸の検査だけに当然「排便に関したもの」になりがちです。
患者さんとの会話でわかった排便状況と大腸内視鏡で観察される腸管運動から、検査自体で緊張した心理的ストレスで下痢や便秘を引き起こす腸管運動異常が観察される事を発見し報告しました (消化器心身医学2009 16 (1) P91-97) 。

  • 下痢型IBSで観察される鎮痙剤で抑制されない腸管蠕動

    下痢型IBSで観察される鎮痙剤で抑制されない腸管蠕動

    この状態では検査の緊張から腸管の蠕動で肛門からガスや水が吹き出ます、鎮痙剤や患者さんの意思で (腸管蠕動による) ガスを止めることはできません。内視鏡は手を離すと腸の蠕動で排泄されます。
    ちなみにリラックスしたり、麻酔で意識がなくなると停止します。
    怖い時に人間は目を閉じますが、目を閉じるだけでも1-2分間で腸の動きは消失します。

  • 痙攣性便秘や便秘型IBSの一部で観察される拡張した腸管と収縮輪

    痙攣性便秘や便秘型IBSの一部で観察される拡張した腸管と収縮輪

    腸管は膨らんだ部位と収縮・弛緩を繰り返す収縮輪でソーセージ様になります。
    内視鏡は収縮輪を一つ一つ通過する必要があり大変困難です。
    リラクセーション効果のある閉眼をすると1-2分で腸管の収縮輪は解消します。

「ねじれた腸管」との出会い

そして過敏性腸症候群の中に大腸内視鏡で腸管運動異常が観察されない「心理的ストレスが関与しない」過敏性腸症候群が存在し、それらの方は下痢や便秘の原因となる心理的ストレスを自覚していないことを発見して報告しました (消化器心身医学 2010 17 (1) 33-39) (Intestinal Research 2017 : 15 (2) : 236-243)。

「浸水法」は水面から腸管の位置関係を把握し、腸管のらせん構造を把握して捻って挿入するため検査時に腸管形態がわかります。
腸管運動異常が観察されない「心理的ストレスが関与しない」過敏性腸症候群では教科書的な腸管形態と異なる、「ねじれた腸管」を持つことが明らかになりました。
以前、注腸造影でスケッチしていた腸管形態は実は意味があるものだったのです。

  • 下痢型IBSで観察される鎮痙剤で抑制されない腸管蠕動

    下行結腸上部の捻じれ (矢印) と口側大腸の拡張
    原因不明の腸閉塞を2回起こした混合型過敏性腸症候群患者 (便秘) のCTによる腸管立体像


    「ねじれた腸管」の方は「教科書的腸管」の方に比べると内視鏡を盲腸まで送り込むのは内視鏡医の立場からすると非常に大変です。具体的には「教科書的腸管」の人が2分程度で盲腸に到達するのに対し、「ねじれた腸管」の方では10分以上かかることは普通です。(JDDW2013 発表)

    「目」が付いている大腸鏡でも盲腸に到達するのに5倍の時間がかかる (5倍の労力がかかる) とすれば、「ねじれた腸管」が便の出にくい一因になると考えても矛盾はないかもしれません。

日本人の大腸の特殊性「ねじれた腸管」

6000人の腸管形態をスケッチし、教科書と違う「ねじれた腸管」があまりにも多いことには気づいていましたが、人類共通の困難部位「S状結腸」を解決したはずの「浸水法」を用いて研修医を指導するときに問題になったのは、下行結腸以降の腸管の「ねじれ」でした。

「浸水法」で研修医は難しかったはずのS状結腸を短期間で容易に通過できるようになるのですが、そのため逆にクローズアップされたのは下行結腸以降が実は難しいと言う事でした。
疑問を明らかにしたかった筆者は、慶應義塾大学解剖学教室の今西准教授と30体の献体を解剖して腸管形態を確認することにしました。
献体で腸管形態を調べれば調べるほど湧いてきた疑問は「誰が教科書の腸管形態を決めたんだ! 」ということでした。それほど腸の形は個人個人バラバラで、教科書通りといってよさそうな人は5名のみでした。

その謎は2011年にハイデルベルグに客員教授として出張して判明しました。

「浸水法」は腸管のねじれに合わせてひねって挿入するため、S状結腸のねじれで起こる腸閉塞「S状結腸軸捻転症」の治療に非常に適しています。そのことをハイデルベルグ大学で講演したところ、みなキョトーンとしています。不思議に思って講演の後で聞いてみると「S状結腸軸捻転症」はドイツではほぼ存在しない病気だと言う事が判明しました。

ドイツ滞在期間に100人の大腸内視鏡を行い、ハイデルベルグ大学の放射線科、消化器科の教授と話したところ、彼らは「何言ってんだ、ドイツ人の腸は教科書通りに決まっているだろう」と言って、注腸写真やハイドロコロンMRI画像を見せてくれました。本当に教科書通りでした。
そして事実、ドイツ人の大腸内視鏡は非常に簡単でみな3分程度で盲腸まで到達し、日本人のような盲腸まで10分もかかる難しい人はほとんどいませんでした。

「教科書の腸管形態」は欧米人のものだったのです。
日本人と違ってドイツ人の大腸内視鏡は非常に容易で、「浸水法」でS状結腸を解決すると検査は終わったも同然で、「最初に「浸水法」のランダマイズドスタディを発表してくれたのが海外からだった」という理由がわかりました。

日本人の腸は「教科書の腸管形態」と異なっている方が非常に多く、「ねじれた腸管」のゆえに検査も海外に比べて困難だという事のようです。

便秘・過敏性腸症候群と「ねじれた腸管」の関係

大腸内視鏡で観察される腸管運動や腸管形態を説明する前に排便状況などを聞くと過敏性腸症候群とともに便秘も腸管形態と大きく関連している事がわかってきました。
すなわち「ねじれた腸管」を持つ人は女性に多く、便秘であることが多く、便秘のきっかけとしてスポーツの中断・結婚 (女性)・退職 (特に男性) など運動量低下を伴うものが多いことがわかりました。
ちなみに「ねじれた腸管」は通常の内視鏡画像からもわかります。

  • 下行結腸上部の捻れと細まり

    下行結腸上部の捻れと細まり

    ねじれた部位は狭くなっています。便が固ければ狭いところをなかなか通過できず、便を押し出そうとする腸の収縮で腹痛を引き起こします。

    検査中、便通障害の原因となっている捻れの部位では内視鏡通過時にも患者さんは便秘の時と類似した腹痛・違和感を自覚します。便が腸の捻じれに引っ掛かるのと同様に内視鏡も腸の捻じれに引っ掛かるので通過が困難です。

便秘がひどく、長い間続くと腸が膨らみ・伸びてしまうとともに、「第2の脳」ともいわれる神経の塊である大腸は便が詰まることで腸閉塞になる危険を感知して水分の吸収を抑制して下痢便となります。この現象は大腸癌で腸閉塞になった場合やS状結腸軸捻転症という大腸の捻転での腸閉塞を起こした場合の腸管内容が下痢便であることと一致します。
また非常に興味深いことに「教科書的腸管形態」を持つ方達に便通状況を聞いてみると、彼らは便秘を経験したことがない、もしくはめったなことでは便秘を経験することはないのです。

つまり「ねじれた腸管」を持つ方が、生活の変化・運動量の低下・食事の変化などこれまで言われてきた便秘の原因をきっかけに「腹痛を伴う便秘」を発症するということです。

「ねじれた腸管」とのよりよい付き合い方

それでは「ねじれた腸管による便秘」はどのようにすればよくなるのでしょうか?
それには「ねじれた腸管による便秘」になるきっかけが何であったかを知ることが大きなヒントになります。

運動量の低下から「ねじれた腸管による便秘」になることは前述したとおりですが、特に多いのが ①テニス、②ダンス、③ゴルフなどをやめた場合です。
他に野球やラクロスなどもありますが、ジョギングやウォーキングはほとんど聞かれません。
つまり「体を捻る運動」をやめると「ねじれた腸管による便秘」が起こりやすいのではないかということです。
これは体を捻る運動が「ねじれた腸管による便秘」を改善しうる可能性を示します。

もう一つは「ねじれた腸管」に大腸内視鏡を挿入するときに我々が使用する補助手段を応用することです。
前述のとおり、「ねじれた腸管」での大腸内視鏡挿入は内視鏡医としては非常に大変です。容易にする方法として我々は患者さん自身による「自己腹部圧迫」を応用しています。内視鏡が通過しやすいように腸の位置を容易に補正できます。
これはすなわち自己腹部圧迫が内視鏡を通過させやすくするように、便をも通過しやすくさせることが可能だと言う事です。

これらの「体を捻るストレッチ」と「自己腹部圧迫によるマッサージ」は「ねじれた腸管による」便秘や過敏性腸症候群に非常に有効です。

ただ、ここで注意しなくてはいけない大原則がいくつか存在します。

  1. 顔形と違って腸の形は外から見えず、他人の腸の状態を経験する事が出来ないという事
  2. 生まれつき便秘だった方を除き、排便状況に何らかの変化があって初めて異常を自覚し、その症状も感じ方も個人差があると言う事
  3. 腹痛や便秘で発症する大腸癌や炎症性腸疾患も有るという事
    ※大腸癌検診をされていない方は医療機関で大腸検査を施行していただく必要があります。
  4. ねじれた腸管であったとしても、全員が便通障害になるわけではないという事
    ※運動や生活習慣、食生活などから「ねじれた腸管」とうまく付き合って生活している場合があります。

「腹痛がない便秘」の場合は「ねじれた腸管」が原因ではなく、「直腸性便秘」や「弛緩性便秘」など腸管運動が低下していることが多いので、従来言われている食生活や生活習慣の改善、排便姿勢の工夫など腸管運動を回復させる治療が重要です。

「ねじれた腸」とうまく付き合っている人たち【図解】
上の腸を持つ方はS状結腸が反転してねじれている60代の男性です。
拡大写真でS状結腸がねじれて細くなっているのが確認されます。
内視鏡検査はとても大変でしたところが普段の状況を伺うと便秘ではないとのこと。念の為に普段の生活を伺うとびっくりしました。
毎日腹筋を200回、ジョギングを5kmしていたのです。
ちなみにこの話には後日談があります。内視鏡検査の時にポリープが見つかり治療をしたため1週間安静にしていただいたところ、ひどい便秘になったと驚いて受診されました。
安静期間が終わり、運動を再開したところ便秘も解消しました。スポーツマンはねじれた腸管とうまく付き合っていたのです。

便秘といって侮るなかれ

便秘自体は大腸 (結腸) 癌のリスクにならないということは国立がんセンター多目的コホート研究 (JPHC研究) から報告*されています。* Otani T et al. Ann Epidemiol. 2006; 16(12): 888-94.

ところが便秘の治療というと軽く考えられて一般に刺激性下剤を連用される傾向にあります。
これまで言われているように刺激性下剤を長期間常用すると下剤に耐性を生じ (下剤が効かなくなり)、腸管粘膜細胞を傷害して大腸粘膜が黒くなる「大腸メラノーシス」になります。

そして刺激性下剤を長期服用した患者からは大腸腫瘍 (腺腫、癌)が増加*するとの海外報告 (* Siegers CP.Gut 1993;34(8):1099-101) 、週に2回以上下剤を内服する群では内服しない群に比して大腸癌のリスクが2.75倍になることが、東北大学の大規模前向きコホート研究報告 (* European Journal of Cancer 2004 Constipation, laxative use and risk of colorectal cancer: The Miyagi Cohort Study.) があります。


大腸メラノーシス 同患者の大腸癌

当院で発見された長期間の刺激性下剤内服による
大腸メラノーシス (左)と、同患者さんの大腸癌 (右)

※この場合の「大腸メラノーシス」は通称で皮膚のメラノーシスと違って色素の原因はメラニンではないため「偽メラノーシス」とも言われます。
黒くなっている原因は刺激性下剤で粘膜細胞が傷害された痕跡、「リポフスチン沈着」であるため、皮膚のメラノーシスと違って下剤を止めて1年程度すると色素は消失します。

大腸メラノーシス

センナを長期間毎日連用した30代女性の大腸、30代にして大腸腺腫もある (左)
センナを減量して2年後、著しく改善している (右)

刺激性下剤を使ったからといってすぐ大腸癌になるわけではありません。

刺激性下剤は例えるならば「強心剤」のようなものです。心臓が弱った方に強心剤を使うと一時的には心機能が回復しますが、連用すると却って寿命を縮めます。
刺激性下剤も同様で、検査の前に腸を空にしたり、リフレッシュさせるために使うには非常に有用な薬ですが、連用すると却って大腸を疲弊させ効果がなくなり腸管神経叢のダメージから弛緩性便秘となって腸が動かなくなってしまいます。

食事や生活習慣を改善させて無理なく排便させる、薬を使用する場合は適正量を適切な方法で使用する。
それぞれの便秘の原因に対する適切な治療選択が重要と考えます。


腹痛がある便秘」と「腹痛がない便秘
最初に記したように、「腹痛がある便秘」の「腹痛」は腸の動きを示しているので、刺激性下剤は不要なことが多く、エクササイズやマッサージで速やかに回復します。

腹痛がない便秘」は「直腸性便秘」や「弛緩性便秘」など腸が動いていない便秘なので、まずそれらへの対処が必要で、腸の動きが回復するには病悩期間に応じた期間 (特に高齢で) が必要でエクササイズやマッサージはさほど効果を示しません。

ご自身の便秘の原因を突き止めて刺激性下剤に頼らない「ご自身の腸との正しい付き合い方」を見つけましょう。
ねじれ腸」と「落下腸
「ねじれ腸」「落下腸」など腸管形態異常が起こす症状・病気はまだ医学書に掲載されていないため、一般病院の消化器内科医が評価することは困難ですが、実は通常の大腸内視鏡検査でも「ねじれた腸管」を判断する方法があります。
内視鏡を担当してくれた医師に「大腸検査が難しかったか? 時間がかかったか? 」を聞いてみることです。
筆者の場合、無症状の人に比べて腸管形態異常の方は2倍以上の時間を要しています。また無麻酔で大腸鏡を施行している場合は、腸管がねじれた (便が引っかかりやすい) 部位で痛みを感じます。

便秘や過敏性腸症候群の原因が「ねじれた腸管」による場合、これらを参考にねじれた部位をマッサージ、ストレッチをすることで症状を改善することが可能です。

関連リンク

こちらから参考資料として「画像検査からみた便秘の病態」 をご覧いただけます。

以下「診療手順のご案内」において、年齢層や、病気別の診療ロジックと治療期間の目安を随時ご紹介いたします。

 「ご自身の腸」を知ってご自身の腸とのよい付き合い方を見つけましょう。

検査で異常がないものの排便障害に苦しんでいる方、特に従来の薬の効果が薄かった方のご受診をお待ちしております。

IBS・便秘外来 担当医師 : 水上 健



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    すでに予約を取られて2ヶ月以上の待ち時間がある方はご連絡いただけると短縮できる場合があります。
    学業や仕事に支障が出ている方は早く診察しますのでご予約の際にお伝えください。
  • これまで医療機関を受診されている方は検査結果を持参していただけると効率よく診察できます。
  • これまでの多くの経験から来院時のレントゲンだけでも腸管形態の評価が可能になりました。
    (普段通りの状態でレントゲンを撮らせていただけると、現在悩んでいる症状の原因を推測できます。診察前日は下剤を飲まないでいらしてください。)
  • レントゲンを診て必要があれば大腸内視鏡検査・CTコロノグラフィーを予定いたします。
  • 最初から大腸内視鏡検査やCTコロノグラフィーをご希望の方は「大腸内視鏡検査の予約」をお願いいたします。
  • 65歳以上の方は身体疾患を考慮する必要があるため、紹介状をお願いいたします。
  • 20歳未満の方、学業や仕事に支障が出ている方は早く診察しますのでお伝えください

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