IBS・便秘外来
小児排便障害治療への取り組み
水上健 医師の書籍が出版されます。2024年8月1日発売
「過敏性腸症候群(IBS)くり返す腹痛・下痢・便秘から脱出するには (健康ライブラリーイラスト版) 講談社」病名からでは分かりにくいIBSをその原因である病態から解説、治療の説明を行っています。
初診枠を増枠しました。
現在初診予約は小児・成人で2週間以内、腹部膨満外来で1ケ月以内に取れるようになりました。当院は肺炎など急性期疾患を扱う医療機関ではありませんが、受診をご希望される患者様には感染防御を万全にして、来院途中もお気をつけていらしてください。発熱や感冒症状など体調が不安であれば、お気軽にお電話で初診日の変更をお申し付けください。
ESPGHAN(欧州小児栄養消化器肝臓学会)2024 5/15-18 MILANOで発表しました。
水上医師
Non-sedative colonoscopy for functional bowel disorders in children
- Causes of difficult insertion as seen from CT colonography -
併せて世界で問題となっているセリアック病の情報収集をおこないました。
※その他学会報告のアーカイブは、こちらでご覧いただけます。IBS/便秘関連学会活動報告
成人のIBSや便秘の発症時期はその40%以上が小児期の発症です。
2012年より成人IBSや便秘の治療経験を基に小児排便障害の診療を開始しました。
最近は国内外から小児の排便障害患者さんがいらっしゃるようになりました。
当院ではこれまで成人を対象にIBSや便秘などの排便障害を無麻酔大腸内視鏡やCTコロノグラフィーで病態を分析して、病態に応じた治療を行ってきました。
多くの症例を経験して分析することにより、症状発現の契機となるストレスの「心当たり」を聴取することで病態にストレスが関連する「腸管運動異常」が存在するか高い確度で診断可能となり、内視鏡やCTを行わなくても腹部X線画像を読影することで「腸管形態異常」を推測することが可能となりました。
食事下痢症である「胆汁性下痢」、食事内容が症状に影響するものととして消化不良症状を引き起こす「FODMAP」やストレス関連の「呑気症」が腹部X線と症状から判断して適切に対処することができるようになりました。
成人治療をしているうちに小児のIBSや便秘について腹部X線を活用すると色々なことが分かってきました。
①下痢型IBSなどのストレス関連の「腸管運動異常」は思春期から出現する体質で、病態認識によるバイオフィードバックを含めた認知療法が有効です。自分の体質とうまく付き合う方法を学ぶことで「卒業」が可能です。
ラモセトロンやタンドスピロンなどこの病態に非常に有効な薬もあります。
②便秘型IBSや混合型IBSでよくみられる「腸管形態異常」には、腸管形態を考慮したエクササイズと便の滑りを改善する新規便秘薬の活用で速やかに改善します。
トイレに何時間もこもって登校できなくなる思春期の重症型便秘型IBSの病態と治療方法につき論文(「長時間にわたる排出困難と腹痛から不登校につながる便秘型IBS6名の病態と治療経過ー直腸。S状結腸の通過障害ー」日本小児心身医学会雑誌「子どもの心とからだ」vol. 29(1): P8-13)を執筆し、速やかな復学を目指す治療を行っています。新薬の活用で回復までの期間は著しく短縮しております。
③食事関連の下痢型IBSには胆汁性下痢症BAMとFODMAPなどの消化不良性下痢をX線と問診だけで推測して治療できることを成人で報告しておりますが、
小児の下痢型IBSでも胆汁性下痢症BAMが存在すること、成人同様に治療ができること(「胆汁酸吸収不良BAMの関与が疑われる難治性下痢型IBS -小児症例と小児期発症成人症例の提示- 」 日本小児心身医学会雑誌 2019 vol.28 No.1 P41-45)が分かってきました。
腹部X線で胆汁性下痢症BAMでは発酵がないのでガスがほとんど見られず、FODMAPなどの消化吸収障害は消化不良の食物が発酵するのでガスが多いのが特徴です(Japan Digestive Disease Week 2019 [JDDW 2019 KOBE]「当院の機能性腹部膨満と腹部膨満症状を有するIBSの病態 ー腹部X線と問診による病態推測ー」)。胆汁性下痢症BAMには特効薬がありますし、FODMAPでは必要最小限の食事制限の指導、脂質の消化吸収障害には薬があります。
④ガスで悩む子供にはストレスで生唾を呑みこむときに空気も呑みこんでしまう呑気症が多く、認知療法と必要に応じた抗不安薬の投与が有効です。当院ではFODMAPなど食事内容によって発酵が起きるものは全体の約10%と低いのですが、③同様に腹部X線と問診で病態を推測して、食事療法を行っています。
⑤乳幼児の便秘は90%以上が直腸性便秘であり、出しにくいお尻の構造が原因であり(第119 回日本小児科学会学術講演会 「当院小児・成人便秘患者の病態の検討 -直腸肛門角異常の影響- 」)、糞便栓の除去後、新規便秘薬の活用(第46回日本小児消化器肝臓栄養学会「乳幼児便秘のdisimpaction後の維持療法におけるPEG4000の有用性」)で便形状をコントロールして正しい排便習慣をつけることで速やかに治ることを報告しております。
腹部X線と詳細な問診票から上記ロジックで診断すると、IBSや便秘の病態はとても理解しやすく、新規IBS薬や便秘薬を使用できるようになったこともあり、速やかに回復が見込めるようになりました。
IBSや便秘にはその症状を引き起こす原因があります。
その原因は腹部X線や問診から推測することができますし、
それぞれの原因にあった有力な薬で速やかな改善が見込めるようになりました。
大人と違って子どもの一日一日はとても大切な瞬間です。
お困りのお子様のご受診をお待ちしております。
小児での症例の診断と治療過程を提示します。
症例の診断と治療過程
1. 下痢と腹痛で悩んで来院された中学生男子
中学校に進学したころから下痢症状と腹痛で悩むようになりました。
下痢症状が出るのは学校のみでストレスの「心当たり」があります。
前のクリニックでイリボー (ラモセトロン) を投与されましたが、下痢は収まるものの逆に便秘になって腹痛が悪化するため内服もできず困って来院されました。
おなかのX線写真を提示します。
下痢の患者さんと思えないほど便が溜まっているのと同時に、仰向けから立ち上がることで体の左に位置する下行結腸が骨盤の方に落ち込むのがわかります。
ストレスの「心当たり」があるので腸管運動異常と、下行結腸の固定不良による腸管形態異常が病態と考えました。
ラモセトロンは非常に強力で有効な薬ですが、腸管形態異常がある運動不足の状態では逆に便秘と腹痛を引き起こすことがあります。
ストレスに反応して腸が動きやすい体質であること、運動不足になると便秘になりやすい体質であることを病態として理解する認知療法を行い、エクササイズやマッサージをしながらラモセトロンを内服することで下痢や腹痛は速やかに消失し、緊張することが予測される日のみ薬を内服するだけでよくなりました。
腹部X線と問診だけで腸管運動異常と腸管形態異常の2つが病態としてあることが判明し、病態に合わせた治療で速やかに改善し、体質を克服した一例です。
2. 生まれつき1週間から10日間便通がない9歳男児
排便習慣と排便姿勢の問題で直腸性便秘になっておなかは便でいっぱいになっていました。
生活習慣と排便姿勢の指導をすることで、翌日から毎日排便ができるようになり、10日後のレントゲンでは著しく便が減っていることが確認できます。
成人でも職場でのトイレの我慢や、高齢での体力の低下やおしりのトラブルでトイレから足が遠のくことで起きますが、特に乳幼児に多いのがこのタイプの直腸性便秘です。
トイレトレーニングや食事移行期、通学開始の時期に起こりやすく、「小児慢性機能性便秘症ガイドライン」で明確な診断と治療のフローチャートが提示されています。
小児で直腸性便秘になりやすいのはおしりが洋式トイレに合っていないタイプの子が多いようで、足台などを用いた排便姿勢を指導すると回復も早く再発が抑制されるようです。
小児排便障害でお悩みの皆さまへ
小児は大人に比べて病悩期間が短いこともあり認知療法が効きやすく、生活指導に順応しやすく、スポーツを取り入れるのが容易なことから大人より回復が早いのが特徴です。
特にストレスが原因の腸管運動異常型IBSでは体質自体は変わらないのですが、体質とうまく付き合えるようになる「病気の卒業」が可能で、体質を理解することでご自身の腸とうまく付き合えるようになるようです。
お子さんの1日1日は大人の1日1日とは全く違う、非常に大切な時間です。
小児の排便障害の治療を始めるようになって、幼少時からずっと長いこと下痢や便秘、腹痛で悩まされていた成人の患者さんたちの辛かったであろう日々を思うと、この方たちを小さいころに治せていたらと心から思います。
早期に病態を把握して、ご自身の腸とうまく付き合う方法を見つけて楽しい日々を送りましょう。
便秘や過敏性腸症候群で困っているお子さんをお待ちしております。
初診は予約制ですので病院内科外来に電話予約をお願いいたします。
(小児の予約は極力お待たせしないようにしております)
- 初診 (要予約) : 【成人】水曜午前中、【小児】木曜午前中
- 再診 : 月曜・金曜
水上 健
すでに予約を取られて2ヶ月以上の待ち時間がある方はご連絡いただけると短縮できる場合があります。
学業や仕事に支障が出ている方は早く診察しますのでご予約の際にお伝えください。
(普段通りの状態でレントゲンを撮らせていただけると、現在悩んでいる症状の原因を推測できます。診察前日は下剤を飲まないでいらしてください。)