IBS・便秘外来
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小児排便障害治療への取り組み
成人のIBSや便秘の発症時期はその40%以上が小児期(思春期)の発症です。 2012年より成人IBSや便秘の治療経験を基に、小児排便障害の診療を行っております。
小児 IBS
当院ではこれまで成人を対象にIBSや便秘などの排便障害を無麻酔大腸内視鏡やCTコロノグラフィーで病態を分析して、病態に応じた治療を行ってきました。
多くの症例を経験して分析し、症状発現の契機となるストレスの「心当たり」を聴取することで病態にストレスが関連する「腸管運動異常」が存在するか診断可能となり、多数症例でCTコロノグラフィー画像と腹部X線画像を併せて検討することで、腹部X線画像から「腸管形態異常」を推測することが可能となりました。
食事下痢症である「胆汁性下痢」、食事内容が症状に影響する消化不良症状、「FODMAP」やストレス関連の「呑気症」が腹部X線と症状から推測して対処できるようになりました。
すなわち問診と腹部X線画像からIBSの病態を推測できるようになりました。
- (1)下痢型IBSなどのストレス関連の「腸管運動異常」は思春期から出現する体質で、病態認識によるバイオフィードバックを含めた認知療法が有効です。自分の体質とうまく付き合う方法を学ぶことで「卒業」が可能です。 ラモセトロンやタンドスピロンなど、この病態に有効な薬もあります。
- (2)便秘型IBSや混合型IBSでよくみられる「腸管形態異常」には、腸管形態を考慮したエクササイズと便の滑りを改善する新規便秘薬の活用で改善が期待できます。
トイレに何時間もこもって登校できなくなる思春期の重症型便秘型IBSの病態と治療方法につき論文※を執筆し、速やかな復学を目指す治療を行っています。
※「長時間にわたる排出困難と腹痛から不登校につながる便秘型IBS6名の病態と治療経過ー直腸。S状結腸の通過障害ー」日本小児心身医学会雑誌「子どもの心とからだ」vol. 29(1): P8-13
- (3)食事関連の下痢型IBSの病態である「胆汁性下痢症」と「FODMAPなどの消化不良性下痢」を腹部X線と問診で推測して治療できることを成人で報告しておりますが、 小児の下痢型IBSでも胆汁性下痢症が存在すること、成人同様に治療ができることが分かってきました。
※「胆汁酸吸収不良BAMの関与が疑われる難治性下痢型IBS -小児症例と小児期発症成人症例の提示- 」 日本小児心身医学会雑誌 2019 vol.28 No.1 P41-45
胆汁性下痢症では発酵がないので腹部X線でガスがほとんど見られず、FODMAPなどの消化吸収障害は消化不良の食物が発酵するのでガスが多いのが特徴です。
※Japan Digestive Disease Week 2019 [JDDW 2019 KOBE]「当院の機能性腹部膨満と腹部膨満症状を有するIBSの病態 ー腹部X線と問診による病態推測ー」
胆汁性下痢症で合併することが多い高脂血症の治療薬は下痢に対しても効果を示し、FODMAPは必要最小限の食事制限を行います。
- (4)ガスで悩む子供にはストレスで生唾を呑みこむときに空気も呑みこんでしまう呑気症が多く、認知療法と必要に応じた抗不安薬の投与が有効です。FODMAPなど食事内容によって発酵が起きるものは全体の約10%ですが、(3)同様に腹部X線と問診で病態を推測して、食事療法を行っています。
腹部X線と詳細な問診票から上記ロジックで診断すると、IBSの病態はとても理解しやすく、新規IBS薬や便秘薬を使用できるようになったこともあって、早い回復が見込めるようになりました。
小児IBS症例の診断と治療過程
1.下痢と腹痛で悩んで来院された高校生男子
中学校に進学したころから下痢症状と腹痛で悩むようになりました。
下痢症状が出るのは学校のみでストレスの「心当たり」があります。
前のクリニックでラモセトロン を投与されましたが、下痢は収まるものの逆に腹痛が悪化するため困って来院されました。

大腸内視鏡では緊張すると強い蠕動がみられ、リラックスすると蠕動は消失しました。
CTコロノグラフィーでは直腸下部とS状結腸が接する(✖印)ほどに折れ曲がっているのが見えます。
ストレスによる「腸管運動異常」と、S状結腸の「腸管形態異常」が病態で、自身の体質を理解し、腸の形に合わせたエクササイズを導入することで、体質とうまく付き合えるようになりました。
大腸内視鏡で観察される「腸管運動異常」は症状の契機となるストレスを自覚している人のほとんどで観察されます(Intest Res. 2017)。「腸管形態異常」は腹部X線からでも推測することができます。 問診で症状の契機となるストレスを聴取して、腹部X線で便やガスからわかる腸管形態を評価するだけでも十分な情報が得られます。
2. 受験前に発症した便秘型IBS 14歳女児
幼児期に下痢と便秘で入院を繰り返していた既往がありますが、その後は問題なく過ごしていました。
中学でサッカー部を頑張っていましたが、受験前に引退したところ便秘に伴う高度の腹痛で悩まされて来院されました。

腹部X線ではS状結腸が骨盤底に下垂して蛇行し(✖印)、下行結腸からの通過障害を起こすことが考えられました。
便秘薬の内服と共にエクササイズと腹部マッサージで回復、進学後、部活を再開することで薬の内服は不要となりました。
乳幼児便秘
便秘の原因には大腸が原因のものと直腸・肛門が原因のものがあります。
乳幼児のほとんど、当院を受診される5歳未満のお子さんの94%は直腸・肛門が原因の便秘で、出しにくいお尻の構造が原因※であり、
※(第119 回日本小児科学会学術講演会 「当院小児・成人便秘患者の病態の検討 -直腸肛門角異常の影響- 」)
糞便栓の除去後、新規便秘薬の活用※で便形状をコントロールして正しい排便習慣をつけることで速やかに改善することを報告しております。
※(第46回日本小児消化器肝臓栄養学会「乳幼児便秘のdisimpaction後の維持療法におけるPEG4000の有用性」)
●直腸・肛門が原因の便秘

受診時3歳、生後2ヶ月からの便秘のお子さん
10日以上も出ないことがあり、排便しようとするとおしりが痛くて泣き叫び、切れて出血するというかわいそうな状況でした。 腹部X線でおしりを先頭に巨大な便があるのが見えます。 どうして便秘になるかという話ですが、「出しやすいおしりと出しにくいおしり」という問題があるようです。
排便に適した体勢
「出しやすいおしり」では腰を少しかがめるだけで肛門が容易に開きスムーズに排便されます。そもそも便秘になりません。
ところが「出にくいおしり」の場合は思いっきり腰を曲げて「考える人」や「和式便所の態勢」にならないと肛門が容易に開きません。力加減ができない乳幼児は、なかなか便が出なくておしりが痛いと便意を我慢して排便しようとしなくなります。便が直腸にずっと残るので直腸の知覚低下が起こって便意は消失し、直腸反射による排便がなくなってしまうのです。
これがいわゆる「直腸性便秘」、乳幼児のほとんどの便秘の原因です。
治すためには直腸反射と直腸の知覚を回復させる必要があります。 まずは浣腸で直腸の便の塊をとって直腸をリセットします。そして、便を出しやすく、おしりが痛くならないように「浸透圧性下剤」で便の固さをコントロールします。大腸は食後に大きく動くので食後に排便努力をするようにします。
このお子さんは数か月を要しましたが、薬が全くいらなくなり便秘を卒業することができました。
乳幼児の直腸性便秘は卒業できる便秘です。
現在は世界標準薬のポリエチレングリコールが使用できるようになり便通のコントロールが非常に容易になりました。
●大腸が原因の便秘
日本人に多い腸の形が原因の便秘のお子さんも5%程度にいます。

S状結腸のねじれが原因で (おしりではなく) お腹が痛い便秘になった3歳のお子さん。
便と黒いガスが大腸に多く溜まり、直腸にはさほど便がありません。
下行結腸からS状結腸のねじれが原因で便秘と腹痛の原因となっていました。
お通じを軟らかくする薬とマッサージ指導ですっかり良くなり、幼稚園に上がって活発に運動をするようになったところ薬もいらなくなりました。
ただし、卒業できる直腸・肛門の便秘と違って、大腸の便秘は運動量が減ると思春期ごろから再発することがあります。
腸のねじれがあるお子さんは継続できる運動を見つけてあげる必要があります。
小児排便障害でお悩みの皆さまへ
お子さんの1日1日は大人の1日1日とは時間の濃度が違う、非常に大切な時間です。
小児排便障害の診療を始めるようになって、幼少時からずっと長いこと下痢や便秘、腹痛で悩まされていた成人の患者さんたちの辛かったであろう日々を思うと、この方たちを小さいころに治せていたらと心から思います。
早期に病態を把握して、ご自身の腸とうまく付き合う方法を見つけて楽しい日々を送りましょう。
便秘やIBSで困っているお子さんをお待ちしております。
初診は予約制ですので病院内科外来に電話予約をお願いいたします。
(小児の予約は極力お待たせしないようにしております)
「IBS・便秘外来」 受診案内
● 学業に支障が出ている方は早く診察しますのでご予約の際にお伝えください。
● 来院当日の調子が良くても、これまでの経験から困っていることの原因の説明ができます。そのまま受診されてください。
● 診療の結果、必要があれば大腸内視鏡検査・CTコロノグラフィーを予定いたします。
水上 健