インターネット依存治療部門 (TIAR)
- 1)外来の治療
- 2)カウンセリング
- 3)個人・集団認知行動療法(CBT)
- 4)子どもNIP・大人NIP
- 5)入院治療
- 6)ネット依存家族会
- 7)ネット依存家族ワークショップ
- 8)治療キャンプ(セルフディスカバリーキャンプ、SDiC)について
2.治療の実際
1) 外来治療
当院では2011年7月よりネット依存治療研究部門を立ち上げ、専門診療にあたっています。
外来診療では、初診時に、質問票に記入していただきます。そして、生活習慣、睡眠、ネットやゲームの使用時間、種類、使用歴、好きな点、他に興味のあること、家族構成、学業や仕事への影響、経済的な問題、家族や対人関係の問題、幼少期の家庭や就学状況等について問診を行い、受診者にどのような問題が起きているかを把握します。2回目以降は、血液検査、視力検査、骨密度、肺機能検査、頭部MRI、脳波、体力測定、および心理検査を実施し、こころやからだの問題について評価します。
問診や検査所見等を踏まえ、ネット・ゲーム依存の診断を行い、今後の治療方針を決定します。治療は、精神療法、個人カウンセリング、個人や集団を対象とした認知行動療法、社会生活技能訓練(Social Skills Training; SST)、デイケアを組み合わせて行います。精神科医による精神療法を中心に、心理面でのアプローチが必要な場合には、臨床心理師による個人カウンセリングも行います。進級、進学、受験等のプレッシャー、家庭内不和、学校での居場所のなさなど、ゲームにのめりこみたくなるような現実生活上の問題が背景にあるケースも多いため、なぜそれほどゲームにのめりこまなければならなかったのか、どれほどゲームの世界が大切だったかという点を十分に理解し、その気持ちに寄り添うことが、患者-治療者関係を築くうえで重要です。
2) カウンセリング
久里浜医療センターでは、ネットやゲームの問題で来院された方一人一人の患者さんの状態や年齢、性格傾向に合わせて、治療の選択肢の中から適切な治療方法を患者さんに提案しています。それらの治療の選択肢の一つに、心理士によるカウンセリングがあります。
a) カウンセリングの構造
カウンセリングは医師による診察とセットで行いますので、頻度も診察と同じで2週間に1回か、1ヶ月に1回の場合が多いです。カウンセリングの時間は、通常45分程度で設定していますが、ネット依存外来の場合、小学生から、大人まで幅広い年齢層のため、時間に少し幅があります。例えば初回のカウンセリングでは、患者さんの状況を詳しくお聞きすることもありますので、時間が長くなることもあります。一方で、小中学生など、自分の言葉で話すことが難しい場合もあるため、最初は30分ほどに短縮するなど、患者さんの特性や状態に合わせて、時間設定を変えることがあります。
b) 相談内容
患者さんはネットやゲームの問題で当院に受診されてきますので、ネットやゲームのことについて話し合うことが主な相談内容です。しかし、ネットやゲームの問題とは言え、生活のこと、学校のこと、友人のこと(ネット内の友人も含む)、家族のこと、そして将来のことなど多くの事柄と関係しています。例えば「将来何をしたいかわからない。だから漫然とゲームをしている」という人もいれば、「家に居場所がない。自分にはネットを通じた友人や、ゲーム仲間やゲームチームが居場所」、「学校でいじめられて行きたくない。家にいても暇だからゲームしている」などがあります。もちろん「ゲームが面白くてはまった」という人もいます。このように、患者さんによって、当院に来院するまでに至った経緯が異なりますので、まずは、その経緯をじっくりとお聞きします。
c) カウンセリングの経過
継続的なカウンセリングが続き、ゲームやネットの問題使用に至った経緯を心理士と患者さんの双方が理解したところで、次は、どのように今の状態から抜け出そうかを一緒に考えます。心理士が方法を提案することもありますし、患者さんから提案されることもあります。ただ、いつもその方法がうまくいくわけではありません。ネットやゲームの問題は、行きつ戻りつしながらゆっくりと回復していくことが多いです。上手くいっている時には患者さんもそのご家族も「このまま大丈夫そうだ」と前向きな気持ちになりますが、もちろんそのまま快方に向かうことばかりではありません。以前の状態と似た状態に戻ることもあります。そういう時は「自分はダメだ」とか「この子は良くならないんじゃないか」と投げやりに思ってしまいますが、今上手くいかないことは、次に上手くいくための準備かもしれませんので、治療を途中であきらめないことが必要になります。そのためにも行きつ戻りつしながら回復していくということを知っていることがとても大切です。
d) ネット・ゲーム依存からの回復
回復は人によって異なります。例えば「ゲーム時間が短くなって生活リズムが安定した」「はまっていたゲームをやめた」「学校(職場)に復帰した」「転校、進学で学校に通うようになった」「アルバイトを始めた」などです。ですが、それでも回復したかどうかわからない、と患者さんは言います。なぜなら、ネットやゲームは、完全にやめることが難しいからです。学校でも、職場でも、友人とのコミュニケーションでも、ネットやゲームを利用します。「またひどい時の自分に戻るかもしれない」という不安を抱える人もいます。そのため、たとえ肯定的な変化がしばらく続いても、完全に診察やカウンセリングを終了するというよりは、学生であれば、長期の休み毎に来院して、診察とカウンセリングを受けることもあります。
3) 個人・集団認知行動療法(CBT)
久里浜医療センターでは、効果が検証されている既存の依存症を対象とした認知行動療法の手法をベースとして、独自に認知行動療法のテキストを作成し、グループでの認知行動療法を行っています。認知行動療法とは、外からの刺激や状況に対する自分の考え方の癖(認知)を自分で気づき、その認知の幅を広げることで、物事への上手な対処方法を増やしていこうとする心理療法の一つです。
当院でのインターネット依存専門診療における認知行動療法は以下のようなテーマで行っています。
回 | テーマ |
1 |
まずゲームについて振り返ってみよう |
2 |
一日の生活をふりかえってみよう |
3 |
起きていた問題をふりかえってみよう |
4 |
ゲーム依存について考えてみよう |
5 |
ゲーム使用の良い点・悪い点 |
6 |
ゲームを使いすぎる引き金 |
7 |
ゲーム以外の楽しい活動を増やそう |
8 |
これからの生活をさらによくするためには |
A |
日々のストレスにどう対処するか |
B |
アサーションのスキルアップ |
C |
「怒り」にうまく対処しよう |
グループでの認知行動療法は、外来治療、デイケア(NIP)や入院中のプログラム、治療キャンプの中で、受けることができます。認知行動療法を、同じ「ゲーム障害」の人同士のグループで実施する良い点としては、同じような状況にあるメンバー同士ですので、ゲーム依存の状況がどういうものなのか、陥ってしまった理由やその苦しさ、依存に対する否認などもお互いが分かりあうことができ、そのような中で自分の行動や問題を客観的にとらえることができるといった点があげられます。また、様々な年齢や、回復の段階にあるメンバーで話し合うことで、改善へのモチベーションを高めることができるというメリットもあります。
対人不安感が強いなど、グループでの治療が困難な方や、集団での認知行動療法が終わったが、もう少し認知行動療法の内容を深めたいという方に対しては、同じテキストを使用して、個別での認知行動療法も行っています。個別での認知行動療法では、集団で行うよりも、より個別の課題や生活状況に沿って考えを深めることができる利点があります。
さらに、現在のテキストはゲームにターゲットを当てた内容になっていますが、動画など、インターネット上のその他のサービスに依存している方に対しても、テキストを修正して個別の認知行動療法を行っています。認知行動療法を希望される方は、診察の際に主治医にその旨お伝えください。
4)子どもNIP・大人NIP
a) 子どもNIP
当院では、インターネット依存専門治療外来に通院されている方々を対象として、毎週水曜日の日中、インターネットなしで過ごす楽しみを見つけていただくことを目的としたグループ活動を行なっています。
NIP(ニップ)は、”New Identity Program”の略です。この名前は、このグループ活動への参加を、「オンライン上」ではない「リアル」の世界で、「自分の本来あるべき姿」や「新たな可能性」を見つけるための一ステップとしてほしいとの願いを込めて付けられました。現在、小・中学生から20代後半くらいの年代を中心に、毎回10名前後の方々が参加し、楽しく活動を行なっています。
*NIPは、月、水、金と週に3回行われています。元々は、入院患者と外来患者が共に参加していました。しかし、新型コロナの影響で、現在、入院患者と外来患者は別々の日にNIPを行っています。将来、コロナが収束した場合には、外来患者用のNIPも週3回に戻るでしょう。
主な活動内容は以下のとおりです。
- バトミントンや卓球、バスケなどの運動(午前中)
- 参加者同士で生活の振り返りをするランチミーティング
- ゲームやインターネットの使い方をみんなで考えるグループ活動(認知行動療法)や、日常生活で困るコミュニケーション場面の練習(生活技能訓練)(午後)
その他、自立を目指して料理をするプログラム、 インターネット以外の趣味をひろげるための院外療法(横須賀軍港ツアーや鎌倉、江の島、中華街散策など)等のイベントを、随時行っています(現在はコロナのため中止しています)。
「昼夜逆転の生活が長引いて生活リズムが取り戻せない」「リアルの世界で楽しいことや得意なことが見つからない」「リアルの人間関係が苦手」「時間をもてあまして何となくインターネットの時間が伸びてしまっている」「社会に出ていく自信がもてないでいる」そんな仲間の参加をお待ちしています。NIPの活動を通して少しずつ自信を取り戻し、リアルの世界に羽ばたいていく仲間が増えることを願っています。
- 日 時: 毎週水曜日 9:30~15:30
- 場 所: 久里浜医療センターデイケア棟
- 参加費用:デイケア費用(健康保険、自立支援適用可)
- 持ち物: 運動ができる服装、体育館シューズ、タオル、飲み物
- 参加方法:外来受診時に主治医にお伝えください。
※参加費用に病院から提供される昼食が含まれます。弁当を持参いただいても結構です。食べ物のアレルギー等がある方は必ずお申し出ください。
時間 | 活動内容 |
午前 | スポーツ(バトミントン・卓球・バスケなど) |
お昼 | 昼食・ランチミーティング |
午後 | ゲームやインターネットの使い方をみんなで考えるグループ(認知行動療法) 日常生活で困るコミュニケーション場面の練習(生活技能訓練) |
参加してくれているメンバーの声をご紹介します
「何かやらされると思ったら、別に何も強制されなかったのが良かった」
「行くだけでなんとなく安心する」「ゲーム依存って言っても色んな面白い人がいるとわかった」
「暗いグループなのかと思ったら明るかったからびっくりした」「運動できてよかった」
NIPに関係した写真を紹介します。
1.鎌倉散策では老舗お好み焼き屋さんに行き、各自思い思いに焼いて食べました。
2.調理プログラムで「たこ焼きパーティー」をしました。関西出身者がいておいしくできました。
3.同じく調理プログラムで作ったクレープです。このクオリティーの高さは「シェフ」のおかげでした。
4.ベランダで野菜も作っています。なすの「キャベツ太郎」(メンバー命名)が元気に育ちました。
5.横須賀軍港ツアーにも行きました。「イージス艦」が見分けられるようになりました。
6.恒例行事となった、病院の中庭でのバーベキュー。肉がいくらあっても足りなくなるので最初に具沢山豚汁を飲んでから肉に取り掛かってもらっています。肉は飲み物ではありません。
7.午後のミーティング恒例の「絵しりとり」。
b) 大人NIP
通常のNIP参加者よりも年長の20代以上の年齢の通院患者さんのグループです。月1回、第3金曜日の13時から15時の2時間実施しています。
内容はメンバーで様々な話をしています。近況報告をしたり、参加メンバーからみんなで話したいことを話題提供していただき、その内容を皆で話したりしています。今までにあがったテーマは、「どうやって就活しているか」、「オープン就労と一般就労のメリット・デメリット」、「それぞれの就労移行センターがどんな感じか」、「どうやって朝間に合うように出かけているか」、「在宅ワークどうしているか」、「女性からモテるにはどうしたらいいか」、「ストレス解消法」などです。
就労移行支援を使っての就労や、クローズドでの就労など、様々な形で就労に結びついているメンバーが参加してくれているので、これからの就活の参考になる話が聞きたくて参加する方や、集団での人との会話になれるために参加している方、ゲーム障害の自助グループとしてなど、それぞれの目的をもって参加してくれています。
参加を希望される方は、診察時に主治医の先生にご相談ください。
5) 入院治療
a) 概要
当院では、生活習慣の著しい乱れ、身体合併症の悪化、家族への暴力等により在宅療養が困難、遠方で外来通院が困難、などの条件を満たす場合、約2か月間の入院治療(原則として開放病棟での任意入院)を提供しています。入院すると、スマホはもちろんパソコンも持ち込み禁止とし、入院期間中、インターネットは一切使用できません。スマホ等の電子機器から離れた環境下で、まずは、昼夜逆転など乱れた生活リズムを元に戻して、生活習慣を確立します。インターネットから離れて、現実を見つめなおし、これから自分が何をしたいのか、という点について自分自身で考え、少しずつ本来の自分を取り戻していきます。また、ほかの患者や医療関係者など家族以外の人との交流を通して、多様な考えや生き方があること、ネットやゲームの過剰使用は自分だけの問題ではないこと、などを学びます。また、インターネットができない環境でも、なんとかやっていけるのではないか、という自信を深めてもらうことも重要です。
b) 入院治療の実際
i) ネット依存を様々な角度から考え、具体的に生活をどのように変えてゆくか考えてゆく認知行動療法
★認知行動療法の様子
久里浜医療センターで最も景色の良い部屋で、患者さん同士で交流します。 主にネットやゲームの使い方を振り返ります。
ii) 睡眠サイクルを整え、体力をつけるためのバトミントンや卓球、テニス、エアロバイクなどの日中の運動
★日中の運動の様子(体育館)
バトミントン、卓球などのスポーツを行います。 運動の得意・不得意は関係なく、皆楽しんで体を動かしています。
iii) 医師、看護師、心理士、精神保健福祉士、栄養士、作業療法士などによる睡眠、運動、栄養、依存、健康問題などについてのレクチャー
iv) 定期的な主治医の診察や心理士によるカウンセリング、様々な検査、体力測定
v) 入院中の余暇活動(作業療法、勉強など)
・作業療法
作業療法は、作業を通して、心や体の機能の回復や健康的な生活の維持を目指します。作業には、下記のような様々な活動があります。患者さんの中には、ネットやゲームに没頭する前に行っていた活動を思い出したり、退院後にネットやゲーム以外の余暇活動として取り入れる活動を発見する人もいます。
紙粘土で作成
折り紙で作成
音楽活動
卓球
上記以外にも、プラモデル作成、革細工、読書、音楽鑑賞、など自分に合った活動を作業療法士と相談し取り組むことが出来ます。
・勉強
勉強も大切な活動です。久里浜医療センターでは、週に2回勉強を教えてくれる先生が来て、一緒に勉強する機会を設けています。もちろん、強制的に勉強してもらうことはありませんが、中には「家ではしないから」と進んで勉強する人もいます。問題が解けるようになると、自信がついたり、学校へ戻る時の不安な気持ちが少し軽くなったという人もいます。
・貸出図書
患者さんの中には、小説、漫画、ライトノベルが好きな人もいます。以前入院した患者さんのご好意で、ライトノベルを借りて読むこともできます。
6) ネット依存家族会
a) 概要
ネットやゲームの過剰使用は、昼夜逆転、学業低下、多額の課金、家庭内暴力、保清が保てない、不摂生な食生活、身体機能の低下など日常生活に深刻な問題をもたらします。心と体の成長に大切な時期をネットやゲームに奪われてしまうことに対してご家族は、危機感や不安感に苛まれています。
「どのように接したらよいのか。」「このような問題はわが家だけなのだろうか。」「回復事例を知りたい。」このようなご家族の声を受けて、ネット依存治療研究部門 (TIAR) は、2011年12月よりネット依存家族会を開催しています。ネット依存家族会では、ネット依存専門スタッフの講義、家族の体験談、スタッフを交えての意見交換・情報交換を行っています。
毎月1回 、第2木曜日、13時~15時に 開催しています。
b) 家族会で得られるもの (目的)
同じ問題を抱える家族同士がTIARスタッフを交えた、責められず、安心して、本音を話せる環境で、Tネット依存専門スタッフによる講義、お互いの体験談の分かち合い、家族対応の経過報告などを通じて、
・ネット依存に関連する最新の情報交換
・ネット依存についての知識の習得
・気持ち、問題、対応の共有と整理
・家族対応の第3者による評価
などが得られます。
c) 家族会に参加するために (参加条件とルール)
当センターに通院中のご家族であることが参加の条件です。未受診の方は、「ネット依存家族ワークショップ」に参加できます。未受診の方は、ネット依存家族ワークショップ参加後に家族会に参加できます。
(関連リンク:ネット依存 家族会)
参加費は無料です。
ネット依存を抱えるご本人は参加できません。
また、ご家族の皆様がお互いに安心して話し合いができるよう参加の際には以下のルールを設けています。
- ・個人の特定につながる情報の守秘義務。
- ・話したくないことは話さない。
- ・参加者の発言に、批判、否定しない。
- ・会場以外でのやりとり(LINE・メール・電話など)を控える。
d) 取材等について
ネット依存の問題が社会問題として広がりを見せています。
当センター家族会にも、TV、新聞、出版社、ネット依存に取り組む医療・福祉・行政機関等からの取材や見学の要請があります。
ネット依存のご家族の問題をより広く社会に伝えていきたいと考えています。取材・見学元には、こちらで事前に十分に取材の意向やプライバシーの保護について精査した上で、取材・見学をお受けする場合がございますので、ご承知おきください。
e) 家族会への参加方法やお問い合わせ
こちらのページにご案内を掲載しています。
ネット依存 家族会
7) ネット依存家族ワークショップ
ネット依存問題に苦慮されておられるご家族を対象に、問題解決のヒントとなる幅広い知識と対応方法を学ぶワークショップを開催いたしております。お一人ではありません。多くのご家族が同じ悩みを抱えています。同じ想いを抱いている参加者と共に学びあい、語り合いの中から解決の糸口を一緒に探してみませんか。
a) 対象
ネット依存の問題でお困りのご家族 (当センター未受診の方も参加できます。ネット依存に苦慮しているご家族であればどなたでも参加できます。ご本人様は参加できません。
当センター未受診のご家族も参加できます。
こちらのページにご案内を掲載しています。
ネット依存家族ワークショップ
8) 治療キャンプ(セルフディスカバリーキャンプ, SDiC)について
a) SDiCとは
2014年から文科省に委託された事業として国立青少年教育振興機構と久里浜医療センターが協力し、ネット依存治療キャンプ(Self-Discovery Camp, セルフディスカバリーキャンプ, SDiC, エスディック)を開始しました。SDiCには8月に行われるメインキャンプと、メインキャンプの約3ヵ月後に行われるフォローアップキャンプから成っています。また、2016年度から過年度のメインキャンプ参加者が参加できるセカンドフォローアップキャンプを始めました。メインキャンプは8泊9日、フォローアップキャンプおよびセカンドフォローアップキャンプは2泊3日の日程で行っています。
b) メンター
SDiCに最も欠かせない存在がメンターです。主に教育系か心理系の大学生のボランティアスタッフをメンターと呼びます。メンターは指導者・助言者という意味で使われますが、SDiCでは、キャンプを共に楽しむ仲間という位置づけです。このメンターが、参加者1人につき1人か、2人につき1人の割合で付き添い、キャンプ期間中寝食を共にします。本来のメンターの意味のように、参加者にアドバイスを伝えることもありますが、決して頭ごなしや指示的にではなく、一緒に考え、一緒に悩み、語り合います。キャンプ前は、自分のことを話すのが苦手だった参加者も、メンターが親身になって話を聞いてくれるため、徐々に心を開いていきます。「将来自分もメンターになりたい」と述べる参加者もいます。
c) プログラム
表1は2019年に行われたメインキャンプのプログラム1)です。
プログラムは、体験活動などの教育的プログラムや、認知行動療法、個人カウンセリング、ワークショップ、ネット依存の講義や家族会などの医療的なプログラムで構成されています。この教育的プログラムと医療的プログラムの組み合わせこそがSDiCの最大の特徴の1つと言えます。SDiCは2020年までに6回開催されていますが、毎年同じプログラムではなく、新しいプログラムを取り入れるなど熟考を重ねています。例えば、ネット依存経験者が、自らの経験を語るプログラムを2018年度から取り入れていますが、キャンプ参加者から「自分の経験と照らし合わせて聞いていた」「自分の今後にも希望が持てた」など肯定的な感想が多いです。また、プログラムの間に自由時間を取り入れるなどして、参加者同士やメンターが一緒に時間を過ごす工夫を考えてもらいます。そのようなキャンプ中の経験が、日常生活に戻った時の時間の過ごし方に良い影響を与えます。
d) SDiCの効果
SDiCの効果としてSDiC参加前と参加後におけるゲーム時間の減少や、自己効力感を示す指標の向上が見られます2)。この自己効力感を示す指標の中では「実行」という項目の向上がみられていますが、この「実行」は、実際に問題を解決できる、問題解決が可能であるという自己効力感を示しています2)。依存症では一般的にこの自己効力感が低下していることが多いので、「実行」が向上したことは社会参加や挑戦へのモチベーションが高まった可能性を示していると考えられます。
参加者の家族も、キャンプ前とキャンプ後の変化を教えてくれています。例えば「食事を3食食べるようになった」「早く起きるようになった」「家の手伝いをするようになった」と生活上での変化もあれば、「学校にいけるようになった」「家で勉強するようになった」「キャンプ前よりも会話が増えた」という参加者もいました。
文献
- 独立行政法人国立青少年教育振興機構. 令和元年度文部科学省委託事業「青少年教育施設を活用したネット依存対策研究事業」報告書, 2020.
- Sakuma H et al. Addict Behav, 2017.