アルコール科

アルコール科の受診について
アルコール科を初めて受診する際には、事前に問診票を記入してお持ちいただいています。
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エクセル様式

概要

  • 約50年前 (昭和38年) からアルコール依存症治療を行っている日本でも最も歴史のあるアルコール医療機関の一つ
  • 日本で最大のアルコール依存症治療施設
  • 豊富な診療実績と、エビデンスに基づく治療
  • 日本におけるアルコール依存症研究の中心
  • 世界保健機関 (WHO) の研修・研究機関
沿革

久里浜医療センターは、昭和16年に設立された横須賀海軍病院野比分院が母体となっています。終戦に伴い厚生省に移管され、昭和22年には国立療養所久里浜病院となりました。
当時は結核療養所でしたが、戦後、飲酒量が急激に増大し、飲酒問題が大きな社会問題となったことを受け、昭和38年に河野裕明、堀内秀 (ペンネーム : なだいなだ) 両医師を中心に、国立病院としては初めて当院にアルコール依存症治療病棟が設立されました。
その後は、我が国におけるアルコール依存症治療の中核として発展しています。

現在、概ね160名以上のアルコール依存症の方が常時入院されており、飲酒の問題による初診者数は年間約800名に上る日本最大のアルコール依存症治療施設です。平成24年4月からは、アルコール医療だけでなく様々な医療に取り組んでいることを踏まえ、「久里浜アルコール症センター」から現在の「久里浜医療センター」に名称を発展的に変更しています。
また臨床だけではなく、様々な研修や研究も行っており、平成元年には世界保健機関 (WHO) のアルコール関連問題研究・研修センターの認定を受けています。昭和50年度からは、厚生労働省の委託により″アルコール依存症臨床等研修″が、医師、看護師、保健師、精神保健福祉士などを対象に年2回行っており、これまでに5,000名以上が修了し、我が国におけるアルコール医療の人材供給の役割を果たしています

アルコール依存症について

アルコール依存症は、飲酒コントロールの喪失という特徴を持つ精神疾患であると同時に、長年の大量飲酒によって引き起こされる生活習慣病でもあります。
依存症になると、家族や仕事など、これまで大切にしていたものより、飲酒が優先されるようになります。
依存症が進行してくると、手の震えなどの離脱症状(禁断症状)や、一日中アルコールが抜けない状態が何日間も続く連続飲酒といった症状が出現してきます。

アルコール依存症の患者数は2003年の調査では約80万人と推計されていますが治療を受けているのは年間5万人に過ぎません。中年男性に多い病気ですが、近年は高齢者や女性の依存症も増えてきています。
一旦依存症になると、程よく飲んでいたころの体質に戻ることはありません。その結果、たとえ長期間断酒が出来たとしても、再度飲酒してしまうと、元の飲酒パターンに戻るという特徴を持っています。
一方で断酒によって健康と健全な生活を取り戻すことのできる治療可能な病気でもあります。
回復を目指して、まずは受診する勇気を持ちましょう。誰にでも回復のチャンスは必ずあります。

診療方針

当センターでは、以下方針にて治療を行っています。


1. アルコール依存症の診断基準

  • アルコール依存症の診断基準には主に世界保健機関(WHO)が作成したICD-10の依存症候群が用いられるが、米国精神神経学会が作成した診断基準であるDSM-Ⅳ-TRもよく使用されています。
  • 診断は基本的に医師により行われます。
  • 現在、DSM,ICDともに改訂作業が進行中です。
ICD-10によるアルコール依存症(alcohol dependence syndrome)の診断ガイドライン

    過去1年間に以下の項目のうち3項目以上が同時に1ヶ月以上続いたか、または繰り返し出現した場合

  1. 飲酒したいという強い欲望あるいは強迫感
  2. 飲酒の開始、終了、あるいは飲酒量に関して行動を統制することが困難
  3. 禁酒あるいは減酒したときの離脱症状
  4. 耐性の証拠
  5. 飲酒にかわる楽しみや興味を無視し、飲酒せざるをえない時間やその効果からの回復に要する時間が延長
  6. 明らかに有害な結果が起きているにもにもかかわらず飲酒
  • 項目の内容を簡略化してある。
DSM-IV-TR(米国精神医学会)によるアルコール依存症(alcohol dependence)診断基準

    同じ12ヵ月の期間内のどこかで、以下の項目のうち3項目以上が出現した場合

  1. 耐性の存在
  2. 離脱症状の存在
  3. はじめのつもりより大量に、またはより長期間、しばしば飲酒
  4. 禁酒または減酒の持続的欲求または努力の不成功
  5. アルコール入手、飲酒、または飲酒の作用からの回復に多くの時間を消費
  6. 飲酒のために重要な社会的、職業的、または娯楽的活動を放棄または減少
  7. 精神的・身体的問題が飲酒によって起こり、悪化していることを知っているにもかかわらず飲酒を継続
  • 項目の内容を簡略化してある。

2. アルコール依存症の新治療プログラム (GTMACK - ジーティーマック - )

病院で行われるアルコール依存症の入院治療には2つの段階があります。
入院当初に行われる第Ⅰ期治療は以下が中心となります。

  • アルコールへの囚 (とら) われからの解放
  • 禁断(離脱)症状に対する解毒治療
  • 肝障害などの身体合併症に対する身体治療

引き続き行われる第Ⅱ期治療 (リハビリテーション治療)

  • 依存症やアルコールの害について正しい知識を身につける酒害教育
  • 抗酒剤などの薬物療法
  • 心理社会的治療

が中心となり、心理社会的治療は従来の集団精神療法 (ミーティング)認知行動療法断酒会・AAなどの自助グループ参加作業療法家族教育などが含まれます。

このたび、当院では平成12年から行われていた認知行動療法を見直してよりわかりやすく、親しみやすく、より有効であること、実際の断酒生活に役立つことを目指して刷新しました。

当院の新しい治療プログラムについて

    新しいプログラムは認知行動療法を基本にしていますが、ロサンゼルスのマトリックス・インスティチュートで開発され国際的にも有効性の示されている包括的な物質依存治療プログラムであるマトリックスモデルを参考として変化のステージモデルやパラダイム発展モデルといった新たな治療法を取り入れています。
    従って、認知行動療法をベースとした新たな治療プログラムになっています。

    新しいプログラムを作成するに当たって以下の点を心がけました。

  1. わかりやすく、親しみやすくすること
  2. 実際の断酒生活に役立つことを目的としてアルコールを避ける生活の送り方、酒の誘いの断り方、飲みたくなったときの対処法、止めていたのに飲んでしまった時の対処法など、より具体的で実践的な内容となること
  3. 断酒することで増える自由な時間の過ごし方、ストレスへの対処法、カッとした時の対処法、楽しい生活の送り方といった生き方そのものを見直していただくきっかけになること

このような治療法を通して、断酒の決意をより強く、より真剣に、そして日常生活で起こるさまざまな問題を酒の力を借りずに上手に賢く乗り切っていただけることを目的としています。

高齢者に対する治療プログラム
高齢者の場合、退職や配偶者との死別などのライフイベントがきっかけとなり、アルコールに逃避する生活を続けるうちにアルコール依存症が形成され、入院に至ることが多く見られます。
加齢に伴う脳機能低下に加えて、アルコールによる脳萎縮の進行によって、認知機能が低下します。そのため自らの力で飲酒問題を認識し、解決することもできなくなってしまいます。
これらの高齢者に認められる心理的、機能的な問題に配慮して、高齢者用のプログラムを用意しています。入院中にプログラムを通じて、自身の問題を整理し、退院後の生活を充実したものに変えていくよう支援していきます。
新治療プログラム (一般用・高齢者用) の内容

一般用のプログラム

  1. 依存症の自己診断 (依存症について理解しましょう)
  2. 飲酒問題の整理 (自分の問題を整理して考えましょう)
  3. 一日の生活を振り返る (飲酒中心の生活ではなかったですか?)
  4. 飲酒と断酒の良い点・悪い点 (それぞれメリット・デメリットがあります)
  5. 将来を考える (何のために断酒しますか?)
  6. 飲酒の引き金 (再飲酒防止のために考えておきましょう)
  7. 社会的圧力 (酒に誘われた時どうしますか?)
  8. 再飲酒の予測と防止 (あらかじめ考えておきましょう)
  9. 思考ストップ法 (飲みたくなった時の対処法です)
  10. 再飲酒時の対処法 (万が一飲んでしまった後、病気を再発させないために)
  11. ストレスに対処する (ストレスに強くなるには)
  12. 怒りのコントロール (怒りは飲酒につながります)
  13. 楽しい活動を増やす (断酒によって増えた時間を有効に使いましょう)
  14. 退院後の生活設計 (断酒だけでは回復しません)

高齢者用のプログラム

  1. アルコール依存症と自己診断 (依存症かどうか、自分で判定してみましょう)
  2. 飲酒問題の整理 (お酒に関する問題を整理しましょう)
  3. 再発予防 (前もって準備しておきましょう)
  4. 退院後の生活設計 (時間を持て余さないようにしましょう)

3. アルコール依存症新薬治療

 アルコール依存症の新しい治療薬が使用できるようになりました

アルコール依存症の治療は、精神療法、自助グループへの参加、心理社会的な支援など様々な角度からアプローチする必要があります。薬物療法もその一つのコンポーネントとして重要です。
従来、我が国では、アルコール依存症の治療薬として抗酒薬のみが使用可能でした。しかし、2013年5月に、実に30年ぶりの新薬として、飲酒欲求を低減させる薬剤であるアカンプロサートカルシウム(商品名レグテクト)が日本でも使用可能となりました。
当センターでも、発売よりアルコール依存症治療に導入し、治療成績の向上に役立てています。

アカンプロサート(レグテクト)と抗酒薬の違い
わが国で従来から用いられてきた薬は、「抗酒薬」と呼ばれる薬です。
抗酒薬には、ジスルフィラム (商品名 : ノックビン) とシアナミド (商品名 : シアナマイド) の2種類があります。これらの薬剤は、抗酒薬を服用中にもし飲酒すると、悪心・嘔吐、頭痛、動悸、顔面紅潮、呼吸困難などの不快な反応を引き起こします。
そのため、抗酒薬を服用している間は、生活の中で飲酒をしたくなるような出来事があった場合にも、「気持ち悪くなるからやめよう」と、心理的に飲酒を断念しやすくなるという作用を持ち、結果的に断酒の継続に役立ちます。
抗酒薬は、きちんと服用ができていれば、断酒維持のための効果は高いものの、重症の肝硬変や心・呼吸器疾患のある場合は使用できない、アレルギーや肝障害といった副作用を引き起こす場合があり、そもそも飲みたくなったら抗酒剤の服用をやめてしまうといった問題点もありました。
一方、アカンプロサートは、脳に作用して、「飲みたいという気持ち」そのものを軽減させる作用を持った薬剤です。比較的安全性が高く、抗酒薬のように飲酒時の頻脈などの反応を引き起こさないため、高齢者などにも投与しやすいという特徴があります。また、研究は少ないものの、薬の相互作用が少ないため、抗酒薬との併用も可能だと考えられています。
アカンプロサート(レグテクト)の有効性
アカンプロサートは、1989年からヨーロッパで、2004年からはアメリカ合衆国でも使用されており、海外では以前から使用されています。
海外では有効性についての研究も数多く行われ、研究の条件によって結果は異なりますが、いくつかのメタ解析 (複数の研究の内容を吟味してもとめて解析する方法) では、全体的にはアカンプロサートが有効であったという報告が多いです。
コクラン・レビューによる24の二重盲検ランダム化比較試験のメタ解析によると、アカンプロサート投与群はプラセボ群に比べて、再飲酒のリスクが14%低く、断酒日数は11%多かったという結果が報告されています*1。また、我が国の治験での結果でも、アカンプロサートはプラセボに比べて約10%断酒率を改善させました。
アカンプロサートは、断酒がある程度できている人が服用することで効果を表すといわれています。現在飲酒している人が、アカンプロサートを服用しても、飲酒量を軽減させる効果はないようです*2。あくまでも断酒が前提となり効果を発揮するので、他の心理社会的な治療と組み合わせて使用することが必要とされています。
アカンプロサート(レグテクト)の作用機序
アカンプロサートの作用機序は、はっきりとわかってはいません。脳内には依存症の形成に大きく関係する報酬系と呼ばれる神経回路があり、様々な神経伝達物質がその働きを調節しています。アカンプロサートは、そのような神経伝達物質の一つであるグルタミン酸の受容体であるNMDA受容体の働きを阻害することが、アカンプロサートの飲酒欲求作用と関係があるのではないかと考えられています。
他にも、同じく脳内の神経伝達物質の受容体であるGABA-A受容体の作用を増強することや、神経保護作用が効果と関係があるとも考えられています。
また、最近の報告では、アカンプロサートカルシウムのカルシウムイオンが、その作用をもたらすのではないかという説もあります*3
このように、まだはっきりとしたメカニズムは解明されていませんが、アカンプロサートは脳内での何らかの作用により、その効果を現すものと思われます。
アカンプロサート(レグテクト)の副作用
アカンプロサートの副作用で最も問題になるのは、下痢や軟便が現れることです。特に投与初期に現れやすく、しばらく服用を続けると軽快することが多いようです。
他に、頻度は高くありませんが、アレルギー、眠気、吐き気などが副作用として挙げられています。
アカンプロサートは腎より排泄されるので、透析を伴うような高度な腎障害のある患者では禁忌とされています。

 アカンプロサート(レグテクト)は、専門医で処方を受けてください

このように、従来の抗酒薬とは異なる作用メカニズムを持つアカンプロサートが治療のオプションとして用いられることになったことは、今後のアルコール依存症の治療成績の向上のために大いに役立つものと期待されています。
しかし、先に述べたように、この薬はただ飲んでいれば飲酒問題が解決するというタイプの薬ではありません。きちんと断酒を行い、アルコール依存症についての正しい知識を学び、飲酒に対しての考え方を変えた上で服用して、初めてその効果を得ることができる薬です。そのため、ただこの薬を処方され服用するだけではなく、他の心理社会的な治療と組み合わせて使用することが必要と注意書きがつけられています。
アカンプロサートの効果を十分に得るためは、アルコール依存症の専門の治療プログラムを持つ病院で診察・処方を受ける必要があります。
アルコール依存症の新治療薬(アカンプロサート)に興味がある方は、ぜひ久里浜医療センターのアルコール外来にご相談ください。


 参考文献

  • 1.Rosner S, Hackl-Herrwerth A, Leucht S, Lehert P, Vecchi S, et al. (2010) Acamprosate for alcohol dependence. Cochrane Database Syst Rev: CD004332.
  • 2.Mason BJ, Lehert P (2012) Acamprosate for alcohol dependence: a sex-specific meta-analysis based on individual patient data. Alcohol Clin Exp Res 36: 497-508.
  • 3.Spanagel R, Vengeliene V, Jandeleit B, Fischer WN, Grindstaff K, et al. (2014) Acamprosate produces its anti-relapse effects via calcium. Neuropsychopharmacology 39: 783-791.

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