ネット依存 : 国際交流 韓国レスキュースクール見学報告

このページは、インターネット依存症への当医療センターの国際的な取り組みを掲載しています。インターネット依存症に関する海外の情報をご覧いただけます。

1. はじめに


テグ・メトロポリタンユースセンター
宿泊施設

我われは、2010年に訪韓した際にお会いした、女性家族部青少年メディア環境課長 Sung Byuk Kim 氏や、その後2011年に我々が主催した第1回インターネット (以下、ネットとする) 依存国際ワークショップにもお招きした Hyun-Soo Kim 氏がその立ち上げに携わったと話してらした、韓国においてネット依存の子供たちを対象に行われている11泊12日のレスキュースクールをかねてから見学させていただきたいと思っていた。
ネット依存治療において、わが国よりも10年は先んじていると言われている韓国が、国をあげて取り組んでいるネット依存治療事業のうちの一つであり、参加者の7割に効果をあげているという話を伺っていたので、その具体的な内容や方法、エッセンスを学び、当院での治療に活かしたいと思っていたからである。

今回、韓国の女性家族部側が許可してくださり、見学を実現させていただくことができた。
合宿が行われた場所は、韓国大邱市のテグ・メトロポリタンユースセンターである。
期間は、2011年12月12日から23日までの11泊12日の合宿のうちの、前半、12日から14日の3日間を見学させていただいた。
見学にうかがったのは、中山秀樹医師、北村大史医師、越野仁美看護師、橋本琢麿看護師と、臨床心理士の三原であった。


2. レスキュースクールについて

2007年から行われている事業である。全国16か所で開催されているとのこと。中学生男子・高校1年生男子・女子の3つの種類の合宿が設定されている。
今回、我々が見学させていただいたテグ・メトロポリタンユースセンターでは、4年目の開催で、去年までは夏のみの開催であったが、去年、父母からの強い要望があり、冬にも開催することになったとのことであった。
運営母体は中央省庁(青少年福祉院)がおおもとで、市が運営している青少年相談センター・教育委員会・市など、地域全体の機関が連携して行っているとのことであった。

中央省庁が予算を出しており、個人負担は10万ウォンほどで、これは実際にかかる費用の10%未満の額とのことであった。
1回の参加人数は、開催する施設の規模にもよるそうであるが、テグ・メトロポリタンユースセンターでは最大30名ほどの募集で、今回は16名の男子中学生が参加していた。
自分から参加を希望してくるケースはほとんどなく、親や先生に連れられてくる子が大部分とのことであった。

参加希望者は、いったん精神科を受診し、そこでプログラム参加が必要との診断を受けてからの参加になる。
ネット依存が軽症の人は外し、重症な人ほど受け入れているが、本当に重症で学校にも行けていないような子の中には、カウンセラーが本人の家に会いに行って合宿への参加をうながしても、「2泊くらいなら参加するが、11泊12日もゲームをしないでいると、ゲーム内の地位が下がってしまうので、長すぎる」と言って、参加できない子もいるとのことであった。
また、低所得の親の子供の参加も多いとのことであった。韓国では長期休みなどには、ネット依存治療をターゲットとしたものの他にも、さまざまな合宿形式のプログラムが開催されているが、親が他の合宿に子供を参加させる費用を出せないため、様々な体験をさせたくてレスキュースクールに連れてくるケースもあるとのこと。
参加者の中には、ここでの体験が楽しくて、終了後に再びネット依存になって、もう一度合宿に参加してくる子さえいるという。

この合宿の中で最も重要な役割を果たすのが、"メント(mentor)" と呼ばれるボランティアの大学生の存在である。参加者の2 ~ 3人に1人がつき、合宿の間中、寝るときも、トイレに行くときも、講義を受けるときも、24時間ずっとつきっきりで行動する。
これは、子供が合宿から逃げ出さないようにするためという理由もあるが、メントと仲良くなり、信頼関係を築き、言いたいことが言えるようになること、メントとの関係を通して何かあったらすぐに人と対話できる力を身につけることがこの合宿の主な目的の一つとのことであった。

合宿は、それだけで完結したプログラムではなく、"3か月間同伴者プログラム" という一連のプログラムのスタート部分にあたるとのことである。合宿終了後も、3か月間は週1回、カウンセラーが家庭を訪問し、事後面接をうけることが必須となっている。
メンタも合宿終了後、本人と3回会う機会を作り、一緒に過ごすことになっているとのことであった。合宿終了後、ネットの使用が合宿参加前の状態に戻ってしまっていても、そこでもう一回やり直そうという気持ちになる子もいるという。

一連のプログラム終了後の目標は、ネットをやらないとか、ネットの使用時間を減らすといったことよりも、他人と対話 (相談) ができるようになること、対社会力をつけることで、ネット使用時間を自ら調節する力をつけることを目標としているとのことであった。
治療転機が、プログラム終了1年後で7割回復とのことだったが、これは学校にちゃんと行くなど、自分がやるべきことをやってネットができているかを見ているとのことであった。


3. 見学の具体的な内容

第1日目 : 12月12日
我々はまず、開校式を見学した。親たちに連れられて子供たちが集まってきた。
開校式では参加者による宣誓や、スタッフの紹介があった。また、詳細な施設の紹介や、食事のルールの説明があった。これは自分で考える力や、生活力をつけるという、プログラムの大切な要素の一つであるようだった。
食事は大変おいしいと毎回生徒たちから好評を得ているとのことであった。また、前回の夏のレスキュースクールの模様が放映された。ユースセンターに映像制作の専属スタッフがいるとのことで、合宿中に前回の参加者の表情が変化してゆく様子がとらえられているなど、よくできているものであった。
最後に、携帯やガジェット類、お金を持っている子はすべて親に渡していた。

その後、親たちはネット依存に関する講義を受講、子供たちは宿舎へ入寮、自分の担当メンタを紹介される。ユースセンターのすぐ横にある、3階建ての宿舎内は、1階がスタッフの詰所と洗濯場、2階が個人面接などを行う部屋、3階が宿泊に使用するとのことであった。
3階は4つの部屋に分かれており、それぞれの部屋で4 ~ 5人の子供とメンタが寝泊まりする。共同のトイレやシャワーもついていた。そして、子供たちは、はじめのプログラムである、"Tシャツ作り" に入る。グループに分かれ、担当のメンタと一緒にテーマを決めてつくることで、メンタとのつながりを深めるとのことであった。
第2日目 : 12月13日
"集団1" を見学する。
2つのグループに分かれ、テキストを用いながら、まずはお互いを知るような内容をゲーム形式で進めていた。
昼食の後、4 ~ 5人ずつ呼ばれ、カウンセラーの先生と1対1でカウンセリングを受ける。待っている間に他の生徒は「代案活動」を行う。ジャグリング、皿回しなど、公演にむけての練習をしたり、教育玩具製作会社の方が電機などについての基礎的な講義を行い、ロボット製作を行ったりしていた。
夕食後、ハンドベルの講師による指導があり、公演へ向けての練習を行う。瞑想では、気功の講師による基礎的な気功を行っていた。寝る前にはおやつの時間が設けられていた。
第3日目 : 12月14日
レスキュースクールのスタッフと

"集団2" ではゲームなど様々な形式を用いながら、ネット依存の弊害について自覚する内容の認知行動療法がおこなわれていた。
集団プログラムの目標は、ネットについて理解すること、自分がどこにいてどういう状態になっているか悟ることだそうである。グループのほうが自らの問題を自覚しやすくネット依存の治療には効果があるとのことであった。

全体を通して、体を動かすプログラムが短時間に次々提供されたり、ゲームや遊びの要素を多く取り入れてあったり、日中のプログラム中は、ほとんど常にアップテンポの音楽がかけられており、子供たちの否認や抵抗感をやわらげたり、集中力を維持できるような工夫が随所になされており、ネット依存に陥っている子供たちの状態や、集団療法を研究し、非常によく理解したうえで組み立てられたプログラムであるという印象をうけた。


4. まとめ

宿の目的を、ネットをしない事や使用時間を短くすることではなく、ネットをするにおいても「何かあった時に人に相談できるような対話力や、家事能力や自分で自分の生活を考える力を含め社会的な力を身につける」ことにおいていることが印象的であった。
このため、子供たちにとって、魅力的でバラエティーに富んだ活動が体験できることばかりでなく、メントとの関係を育む体験が重要な役割をはたしているとのことであった。
また、「ネット依存の問題は、ネットが問題ではなく、問題がネット依存という形で出てきているのであり、最初にある問題が問題である」という視点が貫かれていたことが印象的であった。


5. 謝辞

最後に、今回の見学を引き受けてくださり、お忙しい中を我々に対応して下さった Counseling and Welfare Center of DYSC のスタッフの皆さま、メントの皆さま、テグ・メトロポリタンユースセンターのスタッフの皆さま、見学させて下さった子供たちと父兄の皆さま、渡米中にも関わらず、関係機関に話を通してくださり、細部にわたってご配慮いただきました SungwonRoh 先生、通訳に同行して下さった李春美さまに深謝申し上げます。

(文責 三原聡子)


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