IBS・便秘外来

落下腸について

従来の治療やエクササイズが効きにくい頑固な便秘の原因の一つ「落下腸」は6月25日テレビ朝日「たけしのみんなの家庭の医学」で放送されました。

1. 「ねじれ腸」の放送まで

これまで当院は教科書のような四角い腸ではない「腸管形態異常」を持つ人が「ストレスの関与がない過敏性腸症候群」や「腹痛を伴う便秘 (便秘型過敏性腸症候群) 」を引き起こすことを論文*として報告し、昨年4月の同番組で「ねじれ腸」として放映されました。
* 水上健、鈴木秀和、日比紀文。過敏性腸症候群 (IBS) における大腸鏡検査 - 運動異常型 (ストレス型) IBSと形態異常型IBS - 消化器心身医学2010; 17(1) : 33-39.

当院は無麻酔でも苦痛が少ない大腸内視鏡挿入法「浸水法」を開発し、国内外に発信しています。
我々は慶應義塾大学解剖学教室で実際に日本人の腸管形態を検討して「浸水法」を開発しましたが、実は便が出にくい「ねじれ腸」は内視鏡を非常に入れにくい腸でもあります。

そこで、大腸内視鏡をする上で「ねじれ腸」対策として患者自身がおなかを圧迫して (介助者がおなかを圧迫すると腹筋が緊張して効果が減弱します) 腸のねじれや曲りを補正して内視鏡挿入を容易にする方法を考案して「自己腹部圧迫法」として従来の介助者が患者の腹部を圧迫する方法への優位性を報告しております。

この「自己腹部圧迫法」をストレス関与のない過敏性腸症候群や腹痛のある便秘に応用したのが「ねじれ腸マッサージ」でテレビの実験でも大きな効果を示し、実験に参加された方から1年以上たった現在も効果が持続しているとご連絡をいただいております。

腹痛を伴う便秘の「ねじれ腸」は大腸の動きは悪くないが、大腸がねじれていて便が出にくいため腸の動きで腹痛を感じています。
大腸の動き自体は悪くないので、腸のねじれをマッサージでゆるめてあげれば自然とお通じがよくなるというのが原理です。
つまり内視鏡を入れやすくする方法が便を出しやすくする方法でもあったということです。

2. 「ねじれ腸」の放送後

放映後、「ねじれ腸マッサージ」は非常に大きな反響があり、昨年12月には「ねじれ腸マッサージ」の本を出版しました。

ところで日本人の大腸の形は本当に人それぞれで一つの方法でカバーするのは困難です。
実際の外来では患者さんそれぞれの大腸の形に合ったマッサージをレントゲンや内視鏡などの検査で検討することによりオーダーメードで指導しています。

「ねじれ腸マッサージ」はこれまで診た多くの患者さんたち、その最大公約数として約80%程度の方をカバーするようにして設定しています。
そして本を出版して5ヶ月たち、驚きの事実がわかってきました。

出版前までは受診される患者さんの大部分、約80%は「ねじれ腸マッサージ」が非常に有効な「ねじれ腸」の方たちでした。
ところが出版後の4月以降はその方たちが激減し、「ねじれ腸マッサージ」や運動が効きにくい「落下腸」の方達が約80%を占めるようになってしまったのです。

最近の患者さん方のお話を伺うと、本を読んでからいらっしゃる方が多く、これまでの薬や食事療法、運動療法が効かず「ねじれ腸マッサージ」はほんの少しだけ効果があるけれど何とかならないものかというのが来院動機のようです。
つまり通常の「ねじれ腸」はマッサージで解決して来院される方が減ってしまったが、「ねじれ腸マッサージ」の効果が不十分な「落下腸」の方たちが主にいらっしゃるようになったという事が真相のようです。

落下腸とは

「落下腸」は今回の放送に合わせて付けていただいた名前で医学用語ではありません。
教科書に載っている腸管形態は上行結腸・下行結腸という体の両側を走行する大腸が後腹膜に埋まって固定されて動かないことになっています。
ところが体ができる過程で上行結腸・下行結腸が固定されず腸間膜という膜だけでぶら下がっている状態になることがあります。
総腸間膜症と言われることもありますが、腸間膜はCTでは映らないので実際は仰向けと立位のレントゲンを撮って立位で大腸が骨盤内に落ち込むことで確認されます。
通常の生活では太ってなくてもおへそから下が若いころから出っ張るタイプの人が多いようです。


▼ Aタイプ : 落下腸の方 Bタイプ : 便秘にならない方

  • 落下腸の方:大腸が骨盤内に落ち込む

    Aタイプの立位
    大腸が骨盤内に落ち込む

  • 落下腸の方:大腸が正常部位に戻る

    Aタイプの逆立ち
    大腸が正常部位に戻る

  • 便秘にならない方:教科書通りの四角い腸

    Bタイプの立位
    教科書通りの四角い腸

  • 便秘にならない方:逆立ちしても動かない

    Bタイプの逆立ち
    逆立ちしても動かない

「ねじれ腸」を疑う問診として

  1. 子供の頃から便秘だった
  2. 腹痛を伴う便秘になったことがある
  3. 便秘の後、下痢や軟便が出たことがある
  4. 運動量が減った途端便秘になったことがある

2つ以上該当すると腸がねじれている可能性があると提示しました。

「腹痛を伴う便秘」とは腸は動くものの便が出にくい (通りにくい) ため痛みを感じるものと考えられ、症状が

  1. 排便により軽快する
  2. 排便頻度の変化をともなう
  3. 便性状の変化を伴う

のいずれかを満たすことが多く、前記3項目のうち2項目を満たす「便秘型過敏性腸症候群」と多くの共通点を持ちます

当院では「発症にストレスが関与しない過敏性腸症候群」では教科書的腸管と異なる腸管形態が多く見出されること、その多くが腸管形態に合わせたマッサージやエクササイズで改善すること (消化器心身医学 2010; 17 (1) : 33-39)を報告しております。

TV放映では教科書的腸管形態と異なる「腸管形態異常」をわかりやすく「ねじれ腸」と表現しました。しかし、残念ながら現在のところ腸管形態を評価する分類は存在しません


ほぼ教科書的な腸管形態

私は慶應義塾大学解剖学教室の今西准教授と実際に献体30体の腸管形態を検討し、さらに排便障害の有る無し含め300以上のCTコロノグラフィーを検討しました。
ところが日本人の腸の形は100人100様で分類がないのも納得できる状況でした。
私は実際に100例以上の大腸内視鏡をドイツで施行しましたが、日本人と違って欧米人の腸管形態は教科書的腸管形態がほとんどでした。
腸管形態には明らかな人種差があります。

  • 下行結腸のループ
  • 下行結腸位置が中央
  • 脾彎曲ループ,
    S状結腸挙上

形態分類は困難なものの、「腹痛を伴う便秘」が有る方では

  1. 統計上有意に大腸内視鏡で盲腸に到達する時間が長く (検査困難)
  2. CTコロノグラフィーでは教科書的腸管形態と特に脾彎曲 (左胸の下)・下行結腸・S状結腸の3箇所が「ねじれて」異なり自覚する腹痛の部位と一致
  3. 体をひねる運動を止めたことが発症契機で多い

ことがわかりました。

大腸内視鏡が、

  1. 「ねじれ」部位を通過するときに症状と同様の疼痛を自覚すること
  2. 「ねじれ」部位の内視鏡通過に腹部の圧迫が有効であること
  3. 発症契機に運動量低下が多いこと

からヒントを得て「ねじれ腸マッサージ」を考案したところ、従来治療の効果がなかった「腹痛を伴う便秘」の方の症状が著しく改善したというのが今回の放映内容です。

皆さまへのお願い

  • 腸管形態分類は現在のところ存在せず、「ねじれ腸」は教科書に記載されていません。したがって患者さんが医療機関で「自分はねじれ腸ですか? 」と聞かれても、現時点で医療機関での対応は困難です。
  • 「腹痛を伴う便秘」で「ねじれ腸問診でねじれ腸が疑われた方」は番組で提示したマッサージの効果が期待できます。注意事項 (腹部疾患・腰痛がないこと、妊娠していないこと) を確認の上、マッサージを試してみてください。
  • 「腹痛を伴わない便秘」は腸の動き自体が悪いことが多くマッサージの効果はあまり期待できません。従来の治療や生活習慣の改善が重要です。
  • 便秘の原因には腸の捻れだけではなく大腸・直腸癌や腸の炎症もあります。血便や最近起きた腹痛、体重減少がある方、40歳以上の方は大腸検査を含めて一度医療機関を受診してください。

関連リンク

こちらから参考資料として「画像検査からみた便秘の病態」 をご覧いただけます。

以下「診療手順のご案内」において、年齢層や、病気別の診療ロジックと治療期間の目安を随時ご紹介いたします。

 「ご自身の腸」を知ってご自身の腸とのよい付き合い方を見つけましょう。

従来治療が無効の「過敏性腸症候群」や「腹痛を伴う便秘」の方のご受診をお待ちしております。

IBS・便秘外来 担当医師 : 水上 健



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